はじめまして、期間限定のお飾り妻です
6話 『デリア』に来た理由
イレーネは交番の椅子に座り、青年警察官が馬を連れて戻ってくるのをじっと待っていた。
そこへ……
「どうもすみません、お待たせいたしました」
扉が開き、声をかけられたイレーネは振り向いた。外には一頭の栗毛色の馬の姿がある。
「いえ、そんなに待ってはおりませんので」
「そうですか? では早速行きましょうか?」
青年警察官は『巡回中』と書かれた立て札をカウンターに立てると笑顔を見せる。
「あの……でも、本当によろしいのですか? お仕事中なのに……」
申し訳なくて、イレーネは伏し目がちに尋ねる。
「ええ、お気になさらないで下さい。困っている人を助けるのも警察の仕事ですからね」
「はい。それでは恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「いいえ、気にしないで下さい」
そして二人は連れ立って交番を出た。
「では出発しましょう」
イレーネの背後から馬にまたがった警察官が声をかけてくる。
「は、はい。よ、よろしくお願い……します……」
生まれて初めて馬の背に乗るイレーネが声を震わせながら返事をする。
「あの? どうかしましたか?」
「いえ……お恥ずかしい話ですが、馬の背中に乗るのが初めてなので……こんなに視界が高くなるなんて思いもしませんでした」
男爵令嬢でありながら、落ちぶれた貴族。当然イレーネは乗馬など嗜んだことすらない。
「そうだったのですか? それなら大丈夫です。後ろから支えてあげますから安心して乗って下さい。逆に怖がると、馬にまでその恐怖心が伝わってしまいますよ」
「え? それは本当ですか? なら平常心を保たなければなりませんね」
イレーネは背筋を伸ばすと、青年警察官は笑った。
「アハハハ……なかなか面白い方ですね。では行きましょう」
そして、二人を乗せた馬は常歩で町中を歩き始めた。
****
「ここが、この町で有名な美術館ですよ。週末になると大勢の人で賑わいます。駅からは真っすぐ行けば辿り着くので分かりやすいです。その向かい側にある大きな建物は洋品店です。有名なデザイナーがいるそうですよ」
青年警察官はまるでガイドをするかのように、イレーネに町の案内をしている。
「あんなに立派な美術館や洋品店があるなんて、さすが『デリア』の町は大きいですね」
始めは馬を怖がっていたイレーネだったが、徐々に楽しい気分になってきた。今は町並みの光景を楽しむまでになっている。
「ところで、ご令嬢はどちらからいらしたのですか?」
「はい、『コルト』の町から来ました」
「それで、マイスター伯爵家にはどのようなご要件で向かうのですか?」
「え、それは……」
イレーネは言い淀んだ。実は応募要項に、マイスター伯爵家にメイドの面接を受けることを絶対に外部の人間に漏らしてはならないと記されていたからだ。
(この人はお巡りさんだけど、メイドの面接を受けることを話してはいけないわ。秘密厳守だものね)
そこで咄嗟にイレーネは機転を利かせた。
「はい、友人が勤めているのです。その友人に会うためにマイスター伯爵家に伺います」
「なるほど、それで訪ねるのですね?」
「はい、そうなんです」
その後もイレーネと警察官は会話を交わしながら、マイスター伯爵家へ向かうのだった――
そこへ……
「どうもすみません、お待たせいたしました」
扉が開き、声をかけられたイレーネは振り向いた。外には一頭の栗毛色の馬の姿がある。
「いえ、そんなに待ってはおりませんので」
「そうですか? では早速行きましょうか?」
青年警察官は『巡回中』と書かれた立て札をカウンターに立てると笑顔を見せる。
「あの……でも、本当によろしいのですか? お仕事中なのに……」
申し訳なくて、イレーネは伏し目がちに尋ねる。
「ええ、お気になさらないで下さい。困っている人を助けるのも警察の仕事ですからね」
「はい。それでは恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「いいえ、気にしないで下さい」
そして二人は連れ立って交番を出た。
「では出発しましょう」
イレーネの背後から馬にまたがった警察官が声をかけてくる。
「は、はい。よ、よろしくお願い……します……」
生まれて初めて馬の背に乗るイレーネが声を震わせながら返事をする。
「あの? どうかしましたか?」
「いえ……お恥ずかしい話ですが、馬の背中に乗るのが初めてなので……こんなに視界が高くなるなんて思いもしませんでした」
男爵令嬢でありながら、落ちぶれた貴族。当然イレーネは乗馬など嗜んだことすらない。
「そうだったのですか? それなら大丈夫です。後ろから支えてあげますから安心して乗って下さい。逆に怖がると、馬にまでその恐怖心が伝わってしまいますよ」
「え? それは本当ですか? なら平常心を保たなければなりませんね」
イレーネは背筋を伸ばすと、青年警察官は笑った。
「アハハハ……なかなか面白い方ですね。では行きましょう」
そして、二人を乗せた馬は常歩で町中を歩き始めた。
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「ここが、この町で有名な美術館ですよ。週末になると大勢の人で賑わいます。駅からは真っすぐ行けば辿り着くので分かりやすいです。その向かい側にある大きな建物は洋品店です。有名なデザイナーがいるそうですよ」
青年警察官はまるでガイドをするかのように、イレーネに町の案内をしている。
「あんなに立派な美術館や洋品店があるなんて、さすが『デリア』の町は大きいですね」
始めは馬を怖がっていたイレーネだったが、徐々に楽しい気分になってきた。今は町並みの光景を楽しむまでになっている。
「ところで、ご令嬢はどちらからいらしたのですか?」
「はい、『コルト』の町から来ました」
「それで、マイスター伯爵家にはどのようなご要件で向かうのですか?」
「え、それは……」
イレーネは言い淀んだ。実は応募要項に、マイスター伯爵家にメイドの面接を受けることを絶対に外部の人間に漏らしてはならないと記されていたからだ。
(この人はお巡りさんだけど、メイドの面接を受けることを話してはいけないわ。秘密厳守だものね)
そこで咄嗟にイレーネは機転を利かせた。
「はい、友人が勤めているのです。その友人に会うためにマイスター伯爵家に伺います」
「なるほど、それで訪ねるのですね?」
「はい、そうなんです」
その後もイレーネと警察官は会話を交わしながら、マイスター伯爵家へ向かうのだった――