はじめまして、期間限定のお飾り妻です
63 話 釘を刺す男
朝食後、書斎に戻ったルシアンはリカルドを呼び出した。
「ルシアン様。お呼びでしょうか?」
「ああ。リカルド、今日、明日のお前の予定はどうなっている? 何か外出する予定でもあるか?」
姿見の前でネクタイをしめながら、ルシアンがリカルドに話しかけてきた。
「いえ? 特に外出する予定はありませんが……」
「そうか、なら出かけるぞ。お前も準備をしてくれ」
「え? 本日もですか? 一体どちらへ行かれるのです?」
「祖父のところだ……俺に婚約者ができたことを報告に行くのだ。イレーネにはメイドが……まぁ、日替わりだがつくことが決定したのだから俺とお前が不在になったとしても……多分大丈夫だろう」
「え? ええ……そうかもしれませんが、これはまた随分と急な話ですね。どうなさったのですか?」
するとルシアンが眉をひそめた。
「ゲオルグの奴に先を越されないためだ。一刻も早くイレーネを祖父に紹介し、俺をマイスター家の時期後継者として認めてもらわなければならないだろう?」
「なるほど……確かにその通りですね。分かりました。では早急に用意してまいります。ですが当主様に会いに行かれるのでしたら、日帰りは無理でしょうね。何しろ汽車で半日はかかる場所にありますから」
現当主であるルシアンの祖父は、半年ほど前に体調を崩して今はマイスター家の別荘で療養生活を送っている。
「そうだ。幸い、明日から連休に入る。その間に祖父に会いに行こうと思っている。……全く、電話があれば話は早くて済むのに……」
ルシアンがため息をつく。
「……仕方ありませんよ。当主様にとって、電話はまだ目新しくて抵抗があるかもしれませんね。では、すぐに私も準備をして参ります」
「用意ができたら、また部屋に戻って来いよ」
「はい、かしこまりました」
そして、ルシアンとリカルドは慌ただしく準備を始めた――
****
――11時
「まぁ、今から『ヴァルト』に行かれるのですか?」
イレーネは突然部屋を訪れたルシアンを前に目を見開いた。
「ああ。君と祖父を会わせる前に、祖父と話をしてくるつもりだ。俺には君という婚約者ができたということ伝えにな」
「ヴァルトは、美しい森林で有名な場所でしたよね。そちらにルシアン様のお祖父様がいらしたのですか」
「そうだ。『ヴァルト』にはリカルドも一緒に連れて行く……だから、その……」
ルシアンの歯切れが悪くなり、イレーネは首を傾げる。
「ルシアン様? どうかされましたか?」
「ゴホン! い、いや。そんなわけだからイレーネ。……大人しく待っていてくれ」
遠回しに騒ぎを起こさないようにルシアンは釘を指す。しかし、呑気なイレーネにはその言葉の裏が分かっていない。
「はい、分かりました。ルシアン様のお帰りをじっとお待ちしておりますね?」
「そうか? そう言ってもらえると助かる。 それでは行ってくる。見送りは別
にしなくてもいいからな」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
笑顔で返事をするイレーネ。
こうして、ルシアンはリカルドを連れてマイスター家を後にした。
そして主が不在な時に、またしてもある問題が起こるのであった。
何も知らない使用人たちによって――
「ルシアン様。お呼びでしょうか?」
「ああ。リカルド、今日、明日のお前の予定はどうなっている? 何か外出する予定でもあるか?」
姿見の前でネクタイをしめながら、ルシアンがリカルドに話しかけてきた。
「いえ? 特に外出する予定はありませんが……」
「そうか、なら出かけるぞ。お前も準備をしてくれ」
「え? 本日もですか? 一体どちらへ行かれるのです?」
「祖父のところだ……俺に婚約者ができたことを報告に行くのだ。イレーネにはメイドが……まぁ、日替わりだがつくことが決定したのだから俺とお前が不在になったとしても……多分大丈夫だろう」
「え? ええ……そうかもしれませんが、これはまた随分と急な話ですね。どうなさったのですか?」
するとルシアンが眉をひそめた。
「ゲオルグの奴に先を越されないためだ。一刻も早くイレーネを祖父に紹介し、俺をマイスター家の時期後継者として認めてもらわなければならないだろう?」
「なるほど……確かにその通りですね。分かりました。では早急に用意してまいります。ですが当主様に会いに行かれるのでしたら、日帰りは無理でしょうね。何しろ汽車で半日はかかる場所にありますから」
現当主であるルシアンの祖父は、半年ほど前に体調を崩して今はマイスター家の別荘で療養生活を送っている。
「そうだ。幸い、明日から連休に入る。その間に祖父に会いに行こうと思っている。……全く、電話があれば話は早くて済むのに……」
ルシアンがため息をつく。
「……仕方ありませんよ。当主様にとって、電話はまだ目新しくて抵抗があるかもしれませんね。では、すぐに私も準備をして参ります」
「用意ができたら、また部屋に戻って来いよ」
「はい、かしこまりました」
そして、ルシアンとリカルドは慌ただしく準備を始めた――
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――11時
「まぁ、今から『ヴァルト』に行かれるのですか?」
イレーネは突然部屋を訪れたルシアンを前に目を見開いた。
「ああ。君と祖父を会わせる前に、祖父と話をしてくるつもりだ。俺には君という婚約者ができたということ伝えにな」
「ヴァルトは、美しい森林で有名な場所でしたよね。そちらにルシアン様のお祖父様がいらしたのですか」
「そうだ。『ヴァルト』にはリカルドも一緒に連れて行く……だから、その……」
ルシアンの歯切れが悪くなり、イレーネは首を傾げる。
「ルシアン様? どうかされましたか?」
「ゴホン! い、いや。そんなわけだからイレーネ。……大人しく待っていてくれ」
遠回しに騒ぎを起こさないようにルシアンは釘を指す。しかし、呑気なイレーネにはその言葉の裏が分かっていない。
「はい、分かりました。ルシアン様のお帰りをじっとお待ちしておりますね?」
「そうか? そう言ってもらえると助かる。 それでは行ってくる。見送りは別
にしなくてもいいからな」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
笑顔で返事をするイレーネ。
こうして、ルシアンはリカルドを連れてマイスター家を後にした。
そして主が不在な時に、またしてもある問題が起こるのであった。
何も知らない使用人たちによって――