はじめまして、期間限定のお飾り妻です
66話 驚く令嬢
イレーネは上機嫌で型紙を当てて生地を裁断していた。
「フフフ……こんなに素敵な布地にハサミを入れるなんて初めてだわ。今までは貰い物か安物の生地で服を作っていたから」
その時。
――コンコン
扉がノックされた。
「あら? 誰かしら?」
テーブルにハサミを置くと、イレーネは扉を開けに向かった。
「お待たせしました。あら? あなたは確か……」
扉を開けると、目の前にはメイドのアナが立っている。
「はい、イレーネ様。私は本日、イレーネ様のメイドを務めさせていただきますアナと申します。よろしくお願いします!」
元気よく挨拶をするアナ。
「アナさんね? はじめまして。こちらこそ、これからよろしくね。でも今のところ、手伝ってもらうことは何も無いので大丈夫よ。何かあるときは呼ばせていただくわね?」
笑顔でイレーネは扉を閉めようとしたので、アナは慌てた。
「あ! ちょ、ちょっとイレーネ様! お待ち下さい!」
「え? 何かしら?」
扉をしめかけたイレーネは首を傾げた。
「実は、ルシアン様に会いにお客様がいらしています。ですが、ただいまルシアン様は不在ですよね?」
「ええ、そうね」
「それで、代わりにイレーネ様がお相手して頂けないでしょうか? ルシアン様が不在の今、このお屋敷の代理主人はイレーネ様を置いて他にいらっしゃいませんので」
アナの言葉にイレーネは少し考えた。
(私はルシアン様と1年間の雇用関係を結んだだけの関係。けれど、それでも仮とは言え妻になるわけだし……)
「分かりました、そういうことでしたらお客様のお相手をさせていただきます」
イレーネはにっこり笑みを浮かべる。
「本当ですか!? ありがとうございます! お客様は居間でお待ちになっております」
「あまりお待たせするのはいけないわね。ではすぐに案内してもらえる?」
「はい! イレーネ様!」
「それで、どなたがいらしたのかしら?」
イレーネは廊下に出ると、尋ねた。
「はい。その方は……」
アナはブリジットの名を口にした――
****
「……全く、いつまでこの屋敷の人たちは待たせるのかしら。今日はリカルド氏もいないみたいだし……あら? 美味しいお茶ね」
ブリジットがティーカップに口を付けた直後……。
「お待たせ致しました、ブリジット様」
イレーネが居間に現れた。
「え? あなたは誰?」
突然現れた見知らぬ女性に、ブリジットは驚いて目を見開く。
「まさか、またこうしてお会いできるとは思いもしませんでした。あの時は、本当にありがとうございました」
「ちょっと何言ってるのよ! だからあなたは誰って聞いてるのよ!」
実はブリジットはイレーネのことを自分たちがマダム・ヴィクトリアの店に案内した本人であることに気づいていなかったのだ。
「え? 私のこと……覚えていらっしゃらないのですか? あ、失礼して座らせていただきますね」
ソファに座るイレーネ。
「知らないわよ! 知るはず無いじゃない!」
ブリジットが気付かないのも無理は無かった。何故ならあのときとは違い、今のイレーネは品の良い服に、長い髪も上品に結い上げていたからだった。
「そうなのですね……。私は以前あなたにマダム・ヴィクトリアの店まで連れて行って頂いた者です」
「え……ええ!? あ、あのときの!?」
「まぁ、思い出して頂けたのですね? 嬉しいです」
「ええ、ええ。思い出したわよ。貧しい身なりのくせに、マダム・ヴィクトリアの店で沢山買い物をして、小切手を出したあのときの人よね?」
ブリジットは悔しそうにイレーネを頭の天辺からつま先まで見渡す。
イレーネの着ている服はどれもマダム・ヴィクトリアのデザインであることはすぐに見抜けた。
(悔しいけど……すっごく良く似合ってるわ……)
その時になって、ブリジットはハッとした。
「そ、そういえば何故あなたがルシアン様のお屋敷にいるのよ!」
「はい、ルシアン様の婚約者だからです。私の名前はイレーネ・シエラと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
笑みを浮かべて自己紹介をするイレーネ。
「な、なんですってー!!」
ブリジットの大きな声が居間に響き渡った――
「フフフ……こんなに素敵な布地にハサミを入れるなんて初めてだわ。今までは貰い物か安物の生地で服を作っていたから」
その時。
――コンコン
扉がノックされた。
「あら? 誰かしら?」
テーブルにハサミを置くと、イレーネは扉を開けに向かった。
「お待たせしました。あら? あなたは確か……」
扉を開けると、目の前にはメイドのアナが立っている。
「はい、イレーネ様。私は本日、イレーネ様のメイドを務めさせていただきますアナと申します。よろしくお願いします!」
元気よく挨拶をするアナ。
「アナさんね? はじめまして。こちらこそ、これからよろしくね。でも今のところ、手伝ってもらうことは何も無いので大丈夫よ。何かあるときは呼ばせていただくわね?」
笑顔でイレーネは扉を閉めようとしたので、アナは慌てた。
「あ! ちょ、ちょっとイレーネ様! お待ち下さい!」
「え? 何かしら?」
扉をしめかけたイレーネは首を傾げた。
「実は、ルシアン様に会いにお客様がいらしています。ですが、ただいまルシアン様は不在ですよね?」
「ええ、そうね」
「それで、代わりにイレーネ様がお相手して頂けないでしょうか? ルシアン様が不在の今、このお屋敷の代理主人はイレーネ様を置いて他にいらっしゃいませんので」
アナの言葉にイレーネは少し考えた。
(私はルシアン様と1年間の雇用関係を結んだだけの関係。けれど、それでも仮とは言え妻になるわけだし……)
「分かりました、そういうことでしたらお客様のお相手をさせていただきます」
イレーネはにっこり笑みを浮かべる。
「本当ですか!? ありがとうございます! お客様は居間でお待ちになっております」
「あまりお待たせするのはいけないわね。ではすぐに案内してもらえる?」
「はい! イレーネ様!」
「それで、どなたがいらしたのかしら?」
イレーネは廊下に出ると、尋ねた。
「はい。その方は……」
アナはブリジットの名を口にした――
****
「……全く、いつまでこの屋敷の人たちは待たせるのかしら。今日はリカルド氏もいないみたいだし……あら? 美味しいお茶ね」
ブリジットがティーカップに口を付けた直後……。
「お待たせ致しました、ブリジット様」
イレーネが居間に現れた。
「え? あなたは誰?」
突然現れた見知らぬ女性に、ブリジットは驚いて目を見開く。
「まさか、またこうしてお会いできるとは思いもしませんでした。あの時は、本当にありがとうございました」
「ちょっと何言ってるのよ! だからあなたは誰って聞いてるのよ!」
実はブリジットはイレーネのことを自分たちがマダム・ヴィクトリアの店に案内した本人であることに気づいていなかったのだ。
「え? 私のこと……覚えていらっしゃらないのですか? あ、失礼して座らせていただきますね」
ソファに座るイレーネ。
「知らないわよ! 知るはず無いじゃない!」
ブリジットが気付かないのも無理は無かった。何故ならあのときとは違い、今のイレーネは品の良い服に、長い髪も上品に結い上げていたからだった。
「そうなのですね……。私は以前あなたにマダム・ヴィクトリアの店まで連れて行って頂いた者です」
「え……ええ!? あ、あのときの!?」
「まぁ、思い出して頂けたのですね? 嬉しいです」
「ええ、ええ。思い出したわよ。貧しい身なりのくせに、マダム・ヴィクトリアの店で沢山買い物をして、小切手を出したあのときの人よね?」
ブリジットは悔しそうにイレーネを頭の天辺からつま先まで見渡す。
イレーネの着ている服はどれもマダム・ヴィクトリアのデザインであることはすぐに見抜けた。
(悔しいけど……すっごく良く似合ってるわ……)
その時になって、ブリジットはハッとした。
「そ、そういえば何故あなたがルシアン様のお屋敷にいるのよ!」
「はい、ルシアン様の婚約者だからです。私の名前はイレーネ・シエラと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
笑みを浮かべて自己紹介をするイレーネ。
「な、なんですってー!!」
ブリジットの大きな声が居間に響き渡った――