はじめまして、期間限定のお飾り妻です
76話 浮かれる? 2人
「まぁ……私、寝台列車なんて乗るの生まれて初めてですわ。こんなに素敵な内装の車両があるのですね。まるで一流ホテルみたいですね」
ルシアンと一緒に一等車両に乗り込んだイレーネは物珍しそうにキョロキョロと見渡す。
「そうか? そんなに珍しいか?」
(まるで子供のようだな)
目を輝かせながら、嬉しそうにカーテンに触ているイレーネをルシアンは微笑みながら見つめ……慌てて首を振った。
(馬鹿な! 一体俺まで何を浮かれた気持ちになっているんだ? これから祖父とイレーネを引き合わせるという大仕事が待ち受けているというのに……! どうも彼女といると調子が狂ってしまう)
「……様、ルシアン様!」
「あ、ああ? 何だ?」
考え事をしていたルシアンはイレーネに呼ばれて我に返った。
「確か寝台列車といものは2段ベッドになっているのですよね? それではどちらが上で寝ますか? 私はどちらでも構いませんよ?」
その言葉にルシアンは目を見開く。
「君は一体何を言ってるんだ? いいか? 確かに俺たちは婚約者同士だが、それはあくまで名目上。同じブースで一晩過ごすはずがないだろう? 通路を挟んだ隣にもう一つ寝台スペースを借りている。俺はそこで寝るからイレーネはこの場所を使うといい」
イレーネのトランクケースを棚の上に全てあげるとルシアンは隣のスペースに移動しようとし……。
「お待ち下さい、ルシアン様」
不意にイレーネに背広の裾を掴まれた。
「な、何だ? 一体」
女性に背広の裾を掴まれたことが無かったルシアンは戸惑いながら振り返る。
「就寝時間までは、まだずっと先ではありませんか。よろしければ、ルシアン様もこちらの場所で過ごしませんか? 折角の2人旅なのですから楽しみましょうよ」
(楽しむ……? 楽しむって一体どう意味だ!?)
その言葉に何故かルシアンはドキリとするも、頷く。
「ま、まぁ……別に俺はそれでも構わないが……」
「本当ですか? ではどうぞ向かい側にお座り下さい」
「分かった」
(本当は持参してきた仕事をしようと思っていたが……まぁ、彼女の前でも出来るだろう)
言われるまま、素直に向かい側に座るルシアン。
「それではルシアン様。早速ですが……始めませんか?」
「は? 始める? い、一体何を始めるんだ?」
扉が閉められた密室の空間。イレーネの意味深な言葉に緊張が走る。
「決まっているではありませんか。2人だけの長距離列車の旅ですることと言えば……」
「す、することと言えば……?」
ゴクリとルシアンの喉が鳴る。
「カードゲームですわ!」
「……は?」
ルシアンの口から間の抜けた言葉が飛び出す。
「私、一度でいいから列車の中でカードゲームをしてみたかったのです」
ウキウキした様子でショルダーバッグからトランプを取り出すイレーネ。
「ルシアン様、どんなカードゲームをしましょうか? ポーカー? ブラックジャック? セブンブリッジもいいかもしれませんね」
「……何でもいい。イレーネの好きなカードゲームで……」
ハァ〜とためいきをつきながら、ルシアンは返事をするのだった――
ルシアンと一緒に一等車両に乗り込んだイレーネは物珍しそうにキョロキョロと見渡す。
「そうか? そんなに珍しいか?」
(まるで子供のようだな)
目を輝かせながら、嬉しそうにカーテンに触ているイレーネをルシアンは微笑みながら見つめ……慌てて首を振った。
(馬鹿な! 一体俺まで何を浮かれた気持ちになっているんだ? これから祖父とイレーネを引き合わせるという大仕事が待ち受けているというのに……! どうも彼女といると調子が狂ってしまう)
「……様、ルシアン様!」
「あ、ああ? 何だ?」
考え事をしていたルシアンはイレーネに呼ばれて我に返った。
「確か寝台列車といものは2段ベッドになっているのですよね? それではどちらが上で寝ますか? 私はどちらでも構いませんよ?」
その言葉にルシアンは目を見開く。
「君は一体何を言ってるんだ? いいか? 確かに俺たちは婚約者同士だが、それはあくまで名目上。同じブースで一晩過ごすはずがないだろう? 通路を挟んだ隣にもう一つ寝台スペースを借りている。俺はそこで寝るからイレーネはこの場所を使うといい」
イレーネのトランクケースを棚の上に全てあげるとルシアンは隣のスペースに移動しようとし……。
「お待ち下さい、ルシアン様」
不意にイレーネに背広の裾を掴まれた。
「な、何だ? 一体」
女性に背広の裾を掴まれたことが無かったルシアンは戸惑いながら振り返る。
「就寝時間までは、まだずっと先ではありませんか。よろしければ、ルシアン様もこちらの場所で過ごしませんか? 折角の2人旅なのですから楽しみましょうよ」
(楽しむ……? 楽しむって一体どう意味だ!?)
その言葉に何故かルシアンはドキリとするも、頷く。
「ま、まぁ……別に俺はそれでも構わないが……」
「本当ですか? ではどうぞ向かい側にお座り下さい」
「分かった」
(本当は持参してきた仕事をしようと思っていたが……まぁ、彼女の前でも出来るだろう)
言われるまま、素直に向かい側に座るルシアン。
「それではルシアン様。早速ですが……始めませんか?」
「は? 始める? い、一体何を始めるんだ?」
扉が閉められた密室の空間。イレーネの意味深な言葉に緊張が走る。
「決まっているではありませんか。2人だけの長距離列車の旅ですることと言えば……」
「す、することと言えば……?」
ゴクリとルシアンの喉が鳴る。
「カードゲームですわ!」
「……は?」
ルシアンの口から間の抜けた言葉が飛び出す。
「私、一度でいいから列車の中でカードゲームをしてみたかったのです」
ウキウキした様子でショルダーバッグからトランプを取り出すイレーネ。
「ルシアン様、どんなカードゲームをしましょうか? ポーカー? ブラックジャック? セブンブリッジもいいかもしれませんね」
「……何でもいい。イレーネの好きなカードゲームで……」
ハァ〜とためいきをつきながら、ルシアンは返事をするのだった――