はじめまして、期間限定のお飾り妻です
80話 浮かれるイレーネ、不機嫌なルシアン
ガラガラと走り続ける馬車の中。
昨夜一睡も出来なかったルシアンはウトウトとまどろんでいた。その時……。
「ルシアン様! 見て下さい! すごいですよ!」
馬車から外を眺めていたイレーネが突然大きな声をあげた。
「な、何だ? どうかしたのか?」
ルシアンはイレーネの声に一気に目が覚めた。
「ほら、御覧ください。お城ですよ! お城!」
イレーネが指さした先には森に覆われるようそびえ建つ城だった。
「あれが祖父が住んでいるマイスター家の別荘だ。そろそろ到着しそうだな」
「ええ! あの城に現当主様が住んでいらっしゃるのですか!?」
イレーネが驚きの声を上げる。
「そうだが? それほど驚くことか?」
「驚くことですよ! まさかお城に住んでいらっしゃるなんて、思いもしませんでしたから。私、一度でいいからお城に上がってみたかったのです。それがまさかこんな形で夢が叶うなんて……連れてきて下さってありがとうございます」
そしてイレーネは深々とお辞儀をする。
「いや、礼を言うのはこちらの方だ。わざわざ祖父に会うためにこんな遠方までついてきてくれたのだからな。しかし……それほどまでに城に上がってみたかったのか?」
「ええ、女性なら誰でも一度は夢を見るのでは無いでしょうか? 絵本の世界のようにお城で素敵な王子様に出会う……そんな夢を」
うっとりした目つきで城を眺めるイレーネ。一方、ルシアンは何故か面白い気がしない。
(何だ? そんなに王子というものに憧れているのか?)
「そうか、だが残念だったな。生憎あの城に住んでいるのは年老いた老人だ。50年遅過ぎる」
つい、意地の悪い言葉を口にしてしまう。
「ルシアン様……?」
しかしイレーネがじっと自分を見つめている姿を見た途端、後悔の念が押し寄せてくる。
「す、すまない! 俺はただ……現実の話を……だな…」
「プッ!」
突然イレーネが口元を押さえて吹き出す。
「イレーネ?」
「フフフ……ルシアン様って真面目な方だと思っておりましたが、冗談も言えるのですね」
「え? 冗談?」
「確かに、お城に住んでいる方が全て王子様だとは限りませんよね? ですがルシアン様のお祖父様なら、きっと素敵な方に違いありません。お会いするのがとても楽しみですわ」
素敵な方と言われ、悪い気がしないルシアン。
「そうかな? だが今の話を祖父が聞けば喜びそうだな」
そんな会話を続けているうちに、やがて馬車は城に到着した。
**
城門前で馬車代を払い終えたルシアンは、城を見上げているイレーネに声をかけた。
「待たせたな、イレーネ。では行こうか?」
「はい。ルシアン様」
ルシアンはイレーネの荷物を持つと城門を開けると眼前には広場のような光景が広がった。
美しく整えられた花壇に、4つの噴水は水を噴き上げている。
「まぁ……なんて素晴らしい庭なのでしょう。それにあの美しい城。本当に王子様が住んでいるお城みたいですわ」
「そうか? 君は随分ロマンチストなんだな。だが、あの城は300年以上も昔に建てられた城だから、不便な箇所がいたるところにあるぞ?」
またしてもイレーネの口から「王子様」という言葉が出てきて、ルシアンは面白くない。
けれどイレーネは全くルシアンの言葉を気に留める様子もない。
「ルシアン様、早く城へ向かいましょう! 私、お城の中を見てみたいです!」
そしてイレーネはドレスの裾をつまむと、駆け出した。
「お、おい!? イレーネ! 走らないでくれ!」
ルシアンはイレーネの荷物を引きずりながら、必死で後を追いかける。
「……なるほど。あの娘がルシアンの選んだ相手か……」
イレーネとルシアンは気づいていない。
現当主が2人の様子を城の中からじっと見つめていることを――
昨夜一睡も出来なかったルシアンはウトウトとまどろんでいた。その時……。
「ルシアン様! 見て下さい! すごいですよ!」
馬車から外を眺めていたイレーネが突然大きな声をあげた。
「な、何だ? どうかしたのか?」
ルシアンはイレーネの声に一気に目が覚めた。
「ほら、御覧ください。お城ですよ! お城!」
イレーネが指さした先には森に覆われるようそびえ建つ城だった。
「あれが祖父が住んでいるマイスター家の別荘だ。そろそろ到着しそうだな」
「ええ! あの城に現当主様が住んでいらっしゃるのですか!?」
イレーネが驚きの声を上げる。
「そうだが? それほど驚くことか?」
「驚くことですよ! まさかお城に住んでいらっしゃるなんて、思いもしませんでしたから。私、一度でいいからお城に上がってみたかったのです。それがまさかこんな形で夢が叶うなんて……連れてきて下さってありがとうございます」
そしてイレーネは深々とお辞儀をする。
「いや、礼を言うのはこちらの方だ。わざわざ祖父に会うためにこんな遠方までついてきてくれたのだからな。しかし……それほどまでに城に上がってみたかったのか?」
「ええ、女性なら誰でも一度は夢を見るのでは無いでしょうか? 絵本の世界のようにお城で素敵な王子様に出会う……そんな夢を」
うっとりした目つきで城を眺めるイレーネ。一方、ルシアンは何故か面白い気がしない。
(何だ? そんなに王子というものに憧れているのか?)
「そうか、だが残念だったな。生憎あの城に住んでいるのは年老いた老人だ。50年遅過ぎる」
つい、意地の悪い言葉を口にしてしまう。
「ルシアン様……?」
しかしイレーネがじっと自分を見つめている姿を見た途端、後悔の念が押し寄せてくる。
「す、すまない! 俺はただ……現実の話を……だな…」
「プッ!」
突然イレーネが口元を押さえて吹き出す。
「イレーネ?」
「フフフ……ルシアン様って真面目な方だと思っておりましたが、冗談も言えるのですね」
「え? 冗談?」
「確かに、お城に住んでいる方が全て王子様だとは限りませんよね? ですがルシアン様のお祖父様なら、きっと素敵な方に違いありません。お会いするのがとても楽しみですわ」
素敵な方と言われ、悪い気がしないルシアン。
「そうかな? だが今の話を祖父が聞けば喜びそうだな」
そんな会話を続けているうちに、やがて馬車は城に到着した。
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城門前で馬車代を払い終えたルシアンは、城を見上げているイレーネに声をかけた。
「待たせたな、イレーネ。では行こうか?」
「はい。ルシアン様」
ルシアンはイレーネの荷物を持つと城門を開けると眼前には広場のような光景が広がった。
美しく整えられた花壇に、4つの噴水は水を噴き上げている。
「まぁ……なんて素晴らしい庭なのでしょう。それにあの美しい城。本当に王子様が住んでいるお城みたいですわ」
「そうか? 君は随分ロマンチストなんだな。だが、あの城は300年以上も昔に建てられた城だから、不便な箇所がいたるところにあるぞ?」
またしてもイレーネの口から「王子様」という言葉が出てきて、ルシアンは面白くない。
けれどイレーネは全くルシアンの言葉を気に留める様子もない。
「ルシアン様、早く城へ向かいましょう! 私、お城の中を見てみたいです!」
そしてイレーネはドレスの裾をつまむと、駆け出した。
「お、おい!? イレーネ! 走らないでくれ!」
ルシアンはイレーネの荷物を引きずりながら、必死で後を追いかける。
「……なるほど。あの娘がルシアンの選んだ相手か……」
イレーネとルシアンは気づいていない。
現当主が2人の様子を城の中からじっと見つめていることを――