はじめまして、期間限定のお飾り妻です
83話 イレーネの考え
「失礼いたしました」
ルシアンは一礼すると、書斎を後にした。
――パタン
扉を閉じて、ため息を付いた時。
「ルシアン様」
廊下の角から音もせず、メイソンが姿を現した。
「うわぁ! な、何だ!?」
いきなり音もせずに目の前に現れたことで、ルシアンは情けない声をあげてしまう。
「イレーネ様のお部屋ですが、ルシアン様の隣のお部屋に御案内いたしました」
「そ、そうか? なら様子を見に行くことにしよう」
驚きでドクドクする胸を押さえながら、ルシアンはイレーネがいる部屋へと向かった。
「ここにいるのか」
ルシアンはバラのレリーフが刻まれた白い扉の前で足を止めると、早速ノックした。
――コンコン
少し待っていると扉が開かれ、イレーネが姿を現す。
「ルシアン様。お話は終わられたのですか?」
「ああ、終わった。それで……少し話がしたい。入っても良いか?」
「ええ、どうぞお入り下さい」
「失礼する」
ルシアンは開け放たれた室内に入ると、ソファに腰掛けた。
「イレーネも座ってくれ」
「はい、ルシアン様」
イレーネが着席すると、さっそくルシアンは本題に入ることにした。
「今夜19時に夕食会を開くことになっているから、それなりのドレスを着用してくれ。メイドの手伝いが必要なら俺から口添えしておくが?」
「着替えは用意してあります。1人で準備できますので、お手伝いは大丈夫です」
ニコニコと笑みを浮かべて返事をするイレーネ。
「そうか……分かった。ところで……いくつか尋ねたいことがあるのだが、いいだろうか?」
「はい、どのようなことでしょうか?」
「イレーネは祖父がワイン好きなことを知っていたのか?」
「はい、勿論です。リカルド様に教えていただきましたから」
「何!? リカルドに!? な、何故だ! 祖父のことなら俺に聞けば良かったじゃないか」
思わず席を立ち上がるルシアン。
「申し訳ございません。たまたまルシアン様が不在で、リカルド様に教えて頂きました。その際、マイスター伯爵は無類のワイン好きと伺ったのでワインを持参してきたのです」
「そうか……たまたま俺が不在で、たまたま居たリカルドに助言してもらったということだな?」
(リカルドめ……イレーネが祖父のことを尋ねてきたなんて話、一度もしていないとは……)
ルシアンは何故か仲間はずれにされたような気分で面白くない。
「それで、君の祖父がワインを作っていたと言う話だが……」
「祖父は小さいながらも若い頃にワイナリーを経営しており、ソムリエとしても有名でした。けれど病気を患ってしまい、ワイナリーは閉鎖。ソムリエとしても働けなくなってしまったのです。祖父の作ったワインは僅かばかりですが、地下倉庫に保管しておりました。お金に困っていても手放しませんでした。何しろ形見のワインですので」
「そうだったのか? だが、何故そんな話を今まで黙っていた?」
「え……? それは私とルシアン様の契約婚に祖父は関係ありませんから。それにルシアン様に祖父のことを尋ねられなかったからですけど」
キョトンと首を傾げるイレーネ。そしてその言葉に少なからずショックを受けるルシアン。
「関係ない……? 尋ねられなかった……? ハハハ……確かにそうだったかも……な」
(そうだ、俺はあまりにも彼女の祖父のことについては無関心過ぎたのだ……)
自分を恥るルシアン。
「ルシアン様? どうされましたか? 大丈夫ですか?」
イレーネが心配そうに声をかける。
「い、いや……何でもない。大丈夫だ……ん? 待てよ……。イレーネ、さっきワインは祖父の形見だと言わなかったか?」
「はい、言いました」
あっさり頷くイレーネ。
「何だって!? 君は大切な形見のワインを俺の祖父に飲ませるために持ってきたのか!?」
「はい、そうです。祖父の作ったワインは『コルト』では有名ですから、きっとマイスター伯爵の好まれる味だと思います」
「だが、大切な形見のワインなのだろう? いいのか! そんなマネをして!」
興奮のあまり、つい責めるような口調になってしまう。
「ええ、こういうときにこそのワインです。マイスター伯爵様にワインを差しあげれば私のことも気にいっていただけるのではないでしょうか? 何しろ私の役目はルシアン様を次期当主にすることですので。このくらい、どうってことありませんわ」
笑みを浮かべるイレーネ。
「イレーネ……君って人は……」
その言葉により……ルシアンにとって、イレーネの存在は大きくなるのだった――
ルシアンは一礼すると、書斎を後にした。
――パタン
扉を閉じて、ため息を付いた時。
「ルシアン様」
廊下の角から音もせず、メイソンが姿を現した。
「うわぁ! な、何だ!?」
いきなり音もせずに目の前に現れたことで、ルシアンは情けない声をあげてしまう。
「イレーネ様のお部屋ですが、ルシアン様の隣のお部屋に御案内いたしました」
「そ、そうか? なら様子を見に行くことにしよう」
驚きでドクドクする胸を押さえながら、ルシアンはイレーネがいる部屋へと向かった。
「ここにいるのか」
ルシアンはバラのレリーフが刻まれた白い扉の前で足を止めると、早速ノックした。
――コンコン
少し待っていると扉が開かれ、イレーネが姿を現す。
「ルシアン様。お話は終わられたのですか?」
「ああ、終わった。それで……少し話がしたい。入っても良いか?」
「ええ、どうぞお入り下さい」
「失礼する」
ルシアンは開け放たれた室内に入ると、ソファに腰掛けた。
「イレーネも座ってくれ」
「はい、ルシアン様」
イレーネが着席すると、さっそくルシアンは本題に入ることにした。
「今夜19時に夕食会を開くことになっているから、それなりのドレスを着用してくれ。メイドの手伝いが必要なら俺から口添えしておくが?」
「着替えは用意してあります。1人で準備できますので、お手伝いは大丈夫です」
ニコニコと笑みを浮かべて返事をするイレーネ。
「そうか……分かった。ところで……いくつか尋ねたいことがあるのだが、いいだろうか?」
「はい、どのようなことでしょうか?」
「イレーネは祖父がワイン好きなことを知っていたのか?」
「はい、勿論です。リカルド様に教えていただきましたから」
「何!? リカルドに!? な、何故だ! 祖父のことなら俺に聞けば良かったじゃないか」
思わず席を立ち上がるルシアン。
「申し訳ございません。たまたまルシアン様が不在で、リカルド様に教えて頂きました。その際、マイスター伯爵は無類のワイン好きと伺ったのでワインを持参してきたのです」
「そうか……たまたま俺が不在で、たまたま居たリカルドに助言してもらったということだな?」
(リカルドめ……イレーネが祖父のことを尋ねてきたなんて話、一度もしていないとは……)
ルシアンは何故か仲間はずれにされたような気分で面白くない。
「それで、君の祖父がワインを作っていたと言う話だが……」
「祖父は小さいながらも若い頃にワイナリーを経営しており、ソムリエとしても有名でした。けれど病気を患ってしまい、ワイナリーは閉鎖。ソムリエとしても働けなくなってしまったのです。祖父の作ったワインは僅かばかりですが、地下倉庫に保管しておりました。お金に困っていても手放しませんでした。何しろ形見のワインですので」
「そうだったのか? だが、何故そんな話を今まで黙っていた?」
「え……? それは私とルシアン様の契約婚に祖父は関係ありませんから。それにルシアン様に祖父のことを尋ねられなかったからですけど」
キョトンと首を傾げるイレーネ。そしてその言葉に少なからずショックを受けるルシアン。
「関係ない……? 尋ねられなかった……? ハハハ……確かにそうだったかも……な」
(そうだ、俺はあまりにも彼女の祖父のことについては無関心過ぎたのだ……)
自分を恥るルシアン。
「ルシアン様? どうされましたか? 大丈夫ですか?」
イレーネが心配そうに声をかける。
「い、いや……何でもない。大丈夫だ……ん? 待てよ……。イレーネ、さっきワインは祖父の形見だと言わなかったか?」
「はい、言いました」
あっさり頷くイレーネ。
「何だって!? 君は大切な形見のワインを俺の祖父に飲ませるために持ってきたのか!?」
「はい、そうです。祖父の作ったワインは『コルト』では有名ですから、きっとマイスター伯爵の好まれる味だと思います」
「だが、大切な形見のワインなのだろう? いいのか! そんなマネをして!」
興奮のあまり、つい責めるような口調になってしまう。
「ええ、こういうときにこそのワインです。マイスター伯爵様にワインを差しあげれば私のことも気にいっていただけるのではないでしょうか? 何しろ私の役目はルシアン様を次期当主にすることですので。このくらい、どうってことありませんわ」
笑みを浮かべるイレーネ。
「イレーネ……君って人は……」
その言葉により……ルシアンにとって、イレーネの存在は大きくなるのだった――