はじめまして、期間限定のお飾り妻です
84話 いつの間に!?
18時50分。
マイスター伯爵との夕食会に出る為、ルシアンはイレーネの迎えにやってきた。
――コンコン
扉をノックすると、すぐにイレーネが扉を開けて出迎えた。
「ルシアン様、迎えに来て下さったのですね?」
ルシアンに笑顔を向けるイレーネ。今のイレーネは金の髪をゆるく巻き上げ、薄緑色の足首丈のドレスを着ている。
「ああ、そうだ。……そのドレス、よく似合っているじゃないか」
イレーネをもう少し丁重に扱おうと心に決めたルシアンは、慣れない言葉を口にする。
しかし実際の所、今のイレーネの姿はいつも以上に美しかった。
「本当ですか? ありがとうございます。マイスター伯爵のお好きな色のドレスを着てみたのですよ? 伯爵様に気に入っていただければよいのですけど」
「え? 祖父が好きな色のドレスを着たのか?」
その言葉に耳を疑うルシアン。
(そう言えば……亡くなった祖母はいつも緑色のドレスを着ていたっけな。あれは、こういうことだったのか……ん?)
そこまで考え、ルシアンはあることに気付く。
「ちょっと待ってくれ……イレーネ。何故祖父が緑色を好きだと知っているんだ?」
「はい、メイソンさんに尋ねたからです」
「何? メイソンに?」
「はい。お部屋に案内して頂く間に、マイスター伯爵様の趣味嗜好を尋ねたのです。私の事を気に入っていただくには、まずお相手の方のことを知ることが大事ですから」
ニコニコと笑顔で答えるイレーネを見て、ルシアンはゴクリと息を呑む。
(もしかして俺は……随分イレーネのことを見くびっていたのかもしれない)
「な、なるほど……そういうことだったのか。なかなかやるじゃないか? イレーネ」
「ええ。お任せ下さい。何しろメイドとして働いていたときは『気配りのイレーネ』と呼ばれていたくらいですから。祖父から処世術は伝授されておりますので。私、伯爵様に気に入って頂けるように頑張りますから」
謙遜するでもなく、得意げに胸を反らすイレーネ。
(なるほど……こういう天真爛漫なところもイレーネの魅力の一つなのかもしれないな)
「よし、なら祖父が待っている。行こうか?」
ルシアンは腕を差し出した。
「ええ、ルシアン様」
イレーネは臆することなく、ルシアンの腕をとった――
****
(一体、この状況は何なんだ……?)
夕食会が始まって、1時間。
ルシアンは面白くない気分で1人ワインを飲んでいた。
何故、ルシアンが面白くなさそうにしているかというと……。
「なるほど、腰痛や冷え性にはドクダミ草が効くのか? それは知らなかった」
「はい、そうです。ドクダミは雑草として何かと嫌がられる植物かもしれませんが、様々な効能があるのですよ? それだけではなく、解毒作用や胃腸が弱っているときにも煎じて飲めば薬になります。我が家では良く利用しておりました。」
「それもイレーネ嬢の祖父から教えてもらったのか?」
「はい。祖父はとても博識な方で、尊敬しておりました」
「そうか、イレーネ嬢は年寄りの話を尊重する女性のようだな。まだ若いのに大したものだ」
先程からルシアンをそっちのけで、楽しげに話をしているイレーネとマイスター伯爵。完全に蚊帳の外状態のルシアンだった。
(何なんだ? 2人だけで楽しそうに話などして……)
本来であれば、イレーネと祖父が仲良くなるのは喜ぶべきことだった。
だが、2人だけで盛り上がっているは、それはそれで面白くない。
(全く……誰がここへ連れてきたと思っているんだ?)
半ばヤケをおこし、ワインをグイグイ飲むルシアン。
「……おい! ルシアン! さっきから呼んでいるのだから返事くらいしろ!」
不意に祖父に呼ばれ、ルシアンはハッとした。
「申し訳ございません。お祖父様、何でしょうか?」
「何だ? 人の話を聞いていなかったのか? 全く仕方のない奴め……。いいか? 本日から半月ほど、イレーネ嬢はこの城に滞在することが決定した。なのでお前1人で『デリア』に戻れ。仕事があるのだろう?」
その言葉は、ルシアンの酔いを一気に冷ますには十分だった。
「ええ!! な、何ですって!? いつの間にそんな話を……もしや、お祖父様が無理やりイレーネにここに留まるように命じたのですか?」
すると、眉間にシワを寄せるマイスター伯爵。
「何を人聞きの悪い事を言うのだ。イレーネ嬢がこの城をじっくり見学してみたいと言うから滞在することを勧めたのだ。他にもここ以外に幾つか所有してある城があるだろう。ついでにそれらも見せてやろうかと思ってな」
「え……?」
呆然とルシアンはイレーネを見る。すると……。
「申し訳ございません、ルシアン様。私、お城をじっくり見学したくて……滞在の許可を頂いてもよろしいでしょうか?」
イレーネが手を合わせてルシアンを見つめる。
「……わ、分かった……好きにするといい……」
ルシアンには、イレーネの頼み事を断るなど出来なかった――
マイスター伯爵との夕食会に出る為、ルシアンはイレーネの迎えにやってきた。
――コンコン
扉をノックすると、すぐにイレーネが扉を開けて出迎えた。
「ルシアン様、迎えに来て下さったのですね?」
ルシアンに笑顔を向けるイレーネ。今のイレーネは金の髪をゆるく巻き上げ、薄緑色の足首丈のドレスを着ている。
「ああ、そうだ。……そのドレス、よく似合っているじゃないか」
イレーネをもう少し丁重に扱おうと心に決めたルシアンは、慣れない言葉を口にする。
しかし実際の所、今のイレーネの姿はいつも以上に美しかった。
「本当ですか? ありがとうございます。マイスター伯爵のお好きな色のドレスを着てみたのですよ? 伯爵様に気に入っていただければよいのですけど」
「え? 祖父が好きな色のドレスを着たのか?」
その言葉に耳を疑うルシアン。
(そう言えば……亡くなった祖母はいつも緑色のドレスを着ていたっけな。あれは、こういうことだったのか……ん?)
そこまで考え、ルシアンはあることに気付く。
「ちょっと待ってくれ……イレーネ。何故祖父が緑色を好きだと知っているんだ?」
「はい、メイソンさんに尋ねたからです」
「何? メイソンに?」
「はい。お部屋に案内して頂く間に、マイスター伯爵様の趣味嗜好を尋ねたのです。私の事を気に入っていただくには、まずお相手の方のことを知ることが大事ですから」
ニコニコと笑顔で答えるイレーネを見て、ルシアンはゴクリと息を呑む。
(もしかして俺は……随分イレーネのことを見くびっていたのかもしれない)
「な、なるほど……そういうことだったのか。なかなかやるじゃないか? イレーネ」
「ええ。お任せ下さい。何しろメイドとして働いていたときは『気配りのイレーネ』と呼ばれていたくらいですから。祖父から処世術は伝授されておりますので。私、伯爵様に気に入って頂けるように頑張りますから」
謙遜するでもなく、得意げに胸を反らすイレーネ。
(なるほど……こういう天真爛漫なところもイレーネの魅力の一つなのかもしれないな)
「よし、なら祖父が待っている。行こうか?」
ルシアンは腕を差し出した。
「ええ、ルシアン様」
イレーネは臆することなく、ルシアンの腕をとった――
****
(一体、この状況は何なんだ……?)
夕食会が始まって、1時間。
ルシアンは面白くない気分で1人ワインを飲んでいた。
何故、ルシアンが面白くなさそうにしているかというと……。
「なるほど、腰痛や冷え性にはドクダミ草が効くのか? それは知らなかった」
「はい、そうです。ドクダミは雑草として何かと嫌がられる植物かもしれませんが、様々な効能があるのですよ? それだけではなく、解毒作用や胃腸が弱っているときにも煎じて飲めば薬になります。我が家では良く利用しておりました。」
「それもイレーネ嬢の祖父から教えてもらったのか?」
「はい。祖父はとても博識な方で、尊敬しておりました」
「そうか、イレーネ嬢は年寄りの話を尊重する女性のようだな。まだ若いのに大したものだ」
先程からルシアンをそっちのけで、楽しげに話をしているイレーネとマイスター伯爵。完全に蚊帳の外状態のルシアンだった。
(何なんだ? 2人だけで楽しそうに話などして……)
本来であれば、イレーネと祖父が仲良くなるのは喜ぶべきことだった。
だが、2人だけで盛り上がっているは、それはそれで面白くない。
(全く……誰がここへ連れてきたと思っているんだ?)
半ばヤケをおこし、ワインをグイグイ飲むルシアン。
「……おい! ルシアン! さっきから呼んでいるのだから返事くらいしろ!」
不意に祖父に呼ばれ、ルシアンはハッとした。
「申し訳ございません。お祖父様、何でしょうか?」
「何だ? 人の話を聞いていなかったのか? 全く仕方のない奴め……。いいか? 本日から半月ほど、イレーネ嬢はこの城に滞在することが決定した。なのでお前1人で『デリア』に戻れ。仕事があるのだろう?」
その言葉は、ルシアンの酔いを一気に冷ますには十分だった。
「ええ!! な、何ですって!? いつの間にそんな話を……もしや、お祖父様が無理やりイレーネにここに留まるように命じたのですか?」
すると、眉間にシワを寄せるマイスター伯爵。
「何を人聞きの悪い事を言うのだ。イレーネ嬢がこの城をじっくり見学してみたいと言うから滞在することを勧めたのだ。他にもここ以外に幾つか所有してある城があるだろう。ついでにそれらも見せてやろうかと思ってな」
「え……?」
呆然とルシアンはイレーネを見る。すると……。
「申し訳ございません、ルシアン様。私、お城をじっくり見学したくて……滞在の許可を頂いてもよろしいでしょうか?」
イレーネが手を合わせてルシアンを見つめる。
「……わ、分かった……好きにするといい……」
ルシアンには、イレーネの頼み事を断るなど出来なかった――