はじめまして、期間限定のお飾り妻です
86話 慌てる人たち
――翌日、10時。
「本当に、1人で城に残っていいのか?」
馬車の前に立つルシアンは見送りに出てきたイレーネに尋ねた。
「はい、大丈夫です。半月後には『デリア』に戻りますので」
ニコニコ笑みを浮かべるイレーネ。
「だが……」
イレーネが城の者たちに何かマズイことを口にしたりしないかと、ルシアンの胸中は不安でならなかった。
すると、チョイチョイとイレーネが小さく手招きする。
「何だ?」
「少し、お耳を拝借させて下さい」
2人だけしか聞こえない小さな声を出すイレーネ。
「?」
訝しげに思いながら、ルシアンは身体を傾けてイレーネに顔を近づける。
すると耳元でイレーネが囁いた。
「こちらに滞在中、伯爵様に気に入っていただけるように努めますね。メイソンさんに聞いたのですが、伯爵様は私の人となりを知るために城に滞在するように勧めたそうなので」
「何だって? そうだったのか?」
マイスター伯爵の意図を知り、ルシアンは目を丸くする。
(そんな……! 祖父はイレーネを認めたのでは無かったのか? だが待てよ。1年の婚約期間を設けさせたのは……いつでも俺から後継者の資格を剥奪するためか? ゲオルグと争わせるのが目的なのか!?)
心配性のルシアンは、アレコレと頭の中で考えを巡らす。
「大丈夫ですわ。ルシアン様。そんな深刻な顔をなさらないで下さい。私、頑張りますのでお任せ下さい」
そんな心配性のルシアンをよそに、イレーネはポンポンと軽くルシアンの肩を叩く。
(な、何だ!? い、今……俺の肩を叩いたぞ!?)
突拍子もない行動を取るイレーネを驚きの目で見るものの……ルシアンは苦笑した。
「分かった。それでは半月後に戻ってくるのを待つことにしよう」
「はい。ルシアン様」
こうしてルシアンは若干……というか、かなり不安な気持ちを残したまま1人でデリアに戻って行った――
****
――翌日
「ルシアン様! 一体どういうことなのですか!」
フットマンからルシアン帰宅の連絡を受けたリカルドが、慌ただしくエントランスに現れた。
「リカルド、留守の間に何か変わったことは無かったか?」
ドアマンにキャリーケースを手渡しながら尋ねるルシアン。
「はい、特に変わったことはありませんでしたが……そんなことよりもルシアン様! イレーネ様はどうされたのです? ハッ! ま、まさか……何処かではぐれてしまったのですか!?」
「そんなはずはないだろう!! イレーネは祖父のいる城に滞在しているのだ!」
リカルドの突拍子もない発想にルシアンは苛立ち紛れに叫ぶ。
「ええ!? 当主様の城にいらっしゃるのですか!? まさか置き去りにしたわけでは……?」
「違う! いい加減にしろ! 詳しい話は書斎でする。紅茶を用意して持ってきてくれ」
ルシアンはそれだけ言い残すと、疲れた足取りで書斎へと向かっていく。
その後姿を見送るリカルドとドアマン。
「リカルド様……一体ルシアン様とイレーネ様はどうなさったのでしょう?」
情けない声で尋ねてくるドアマン。
「さ、さぁ……でもこうしてはいられない! 急いでルシアン様に紅茶を用意しなければ! ルシアン様の手荷物を頼む!」
「はい、リカルド様」
リカルドは急いで厨房へと向かった。ルシアンに淹れる紅茶を用意するため。
そして、イレーネ不在の真相を確かめるために――
「本当に、1人で城に残っていいのか?」
馬車の前に立つルシアンは見送りに出てきたイレーネに尋ねた。
「はい、大丈夫です。半月後には『デリア』に戻りますので」
ニコニコ笑みを浮かべるイレーネ。
「だが……」
イレーネが城の者たちに何かマズイことを口にしたりしないかと、ルシアンの胸中は不安でならなかった。
すると、チョイチョイとイレーネが小さく手招きする。
「何だ?」
「少し、お耳を拝借させて下さい」
2人だけしか聞こえない小さな声を出すイレーネ。
「?」
訝しげに思いながら、ルシアンは身体を傾けてイレーネに顔を近づける。
すると耳元でイレーネが囁いた。
「こちらに滞在中、伯爵様に気に入っていただけるように努めますね。メイソンさんに聞いたのですが、伯爵様は私の人となりを知るために城に滞在するように勧めたそうなので」
「何だって? そうだったのか?」
マイスター伯爵の意図を知り、ルシアンは目を丸くする。
(そんな……! 祖父はイレーネを認めたのでは無かったのか? だが待てよ。1年の婚約期間を設けさせたのは……いつでも俺から後継者の資格を剥奪するためか? ゲオルグと争わせるのが目的なのか!?)
心配性のルシアンは、アレコレと頭の中で考えを巡らす。
「大丈夫ですわ。ルシアン様。そんな深刻な顔をなさらないで下さい。私、頑張りますのでお任せ下さい」
そんな心配性のルシアンをよそに、イレーネはポンポンと軽くルシアンの肩を叩く。
(な、何だ!? い、今……俺の肩を叩いたぞ!?)
突拍子もない行動を取るイレーネを驚きの目で見るものの……ルシアンは苦笑した。
「分かった。それでは半月後に戻ってくるのを待つことにしよう」
「はい。ルシアン様」
こうしてルシアンは若干……というか、かなり不安な気持ちを残したまま1人でデリアに戻って行った――
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――翌日
「ルシアン様! 一体どういうことなのですか!」
フットマンからルシアン帰宅の連絡を受けたリカルドが、慌ただしくエントランスに現れた。
「リカルド、留守の間に何か変わったことは無かったか?」
ドアマンにキャリーケースを手渡しながら尋ねるルシアン。
「はい、特に変わったことはありませんでしたが……そんなことよりもルシアン様! イレーネ様はどうされたのです? ハッ! ま、まさか……何処かではぐれてしまったのですか!?」
「そんなはずはないだろう!! イレーネは祖父のいる城に滞在しているのだ!」
リカルドの突拍子もない発想にルシアンは苛立ち紛れに叫ぶ。
「ええ!? 当主様の城にいらっしゃるのですか!? まさか置き去りにしたわけでは……?」
「違う! いい加減にしろ! 詳しい話は書斎でする。紅茶を用意して持ってきてくれ」
ルシアンはそれだけ言い残すと、疲れた足取りで書斎へと向かっていく。
その後姿を見送るリカルドとドアマン。
「リカルド様……一体ルシアン様とイレーネ様はどうなさったのでしょう?」
情けない声で尋ねてくるドアマン。
「さ、さぁ……でもこうしてはいられない! 急いでルシアン様に紅茶を用意しなければ! ルシアン様の手荷物を頼む!」
「はい、リカルド様」
リカルドは急いで厨房へと向かった。ルシアンに淹れる紅茶を用意するため。
そして、イレーネ不在の真相を確かめるために――