はじめまして、期間限定のお飾り妻です
88話 口論する2人
イレーネが『ヴァルト』の城に残り、1周間が経過していた。
マイスター伯爵邸では、リカルドが予言? していた通りイレーネ不在により、活気がすっかり消え失せていた。
「ルシアン様。使用人たちが話しておりましたよ? イレーネ様はいつ頃この屋敷に戻られるのだろうと」
書斎で仕事をしているルシアンに紅茶を淹れに来たリカルドが声をかける。
「さぁな。半月程滞在すると言っていたから、まだ戻って来ないのではないか?」
ペンを走らせながらルシアンが答える。
「それで、イレーネさんからは連絡が来ているのですか?」
その言葉にルシアンの動きがピタリと止まる。
「電話が来ている様子も無ければ、お手紙も届いてはおりませんよね」
「そうだな……だが、便りがないということは、元気でいる証拠なのではないか?」
ルシアンは相変わらず顔を上げないまま、黙々と仕事をしている。そんなルシアンの手元を見ながらリカルドが声をかけた。
「ルシアン様」
「何だ?」
「何故、この書類にまでサインをしているのですか? これは取引先から受けとった書類でサインは必要ありませんよね?」
「え!? あ!」
慌てて書類を避けるルシアン。
「やはり、ルシアン様もイレーネ様から連絡が来ないので気がかりで仕方ないのでしょう? 心配していないふりをしてもみえみえですよ?」
「う、うるさい! お前が先程から話しかけてくるから間違えただけだ! 妙な勘ぐりをするのはやめろ!」
「そうでしょうか? でもその証拠に、ここ1週間ルシアン様は外出せずに屋敷に閉じこもっているではありませんか。イレーネさんからの連絡を待っているからですよね?」
「違う! 片付けなければならない書類が山積みだからだ! そ、それに閉じこもってばかりではないぞ? ちゃんと外へ出て仕事だってしている!」
しかし、それでもリカルドは食い下がってくる。
「確かに外出はなさっておりますが、遅くても3時間以内には戻ってこられておりますよね? しかも毎日『おい、俺宛に手紙が届いていないか?』とメッセンジャーに尋ねているのを知らないとでも思っているのですか?」
「うっ!」
ここまで問い詰められれば、さすがのルシアンも何も言い返せない。
「そ、それは……」
しかし、リカルドはルシアンの言い訳を聞こうともせずにため息をつく。
「はぁ〜……イレーネさん。本当にあなたはどうしてしまったのでしょう? 当主様に電話をいれても、イレーネさんは元気にしていると言って電話に出してもくれないし……」
その言葉にルシアンは耳を疑う。
「は……? リカルド……。 お、お前……今、何と言った? 祖父に電話を入れていたのか?」
「ええ、ルシアン様が御当主様に連絡を入れてくださらないからですよ。 だとしたら、この屋敷の執事である私がいれるしかないじゃありませんか!」
「な、何だって〜! リカルド! この俺に断りもなく、勝手な真似をするな!」
怒りのあまり、立ち上がるルシアン。しかし幼馴染の執事リカルドは引かない。
「ルシアン様が動かないから、勝手な真似をするしか無いのですよ!」
「はぁ!? ふざけるな!」
「ふざけてなどおりません! 至って本気です!」
「本気だと!? なおさら悪い!」
こうして主と執事の口論が始まった。
しかし、2人はまだ知らない。
イレーネがルシアンに連絡を入れない、その理由を――
マイスター伯爵邸では、リカルドが予言? していた通りイレーネ不在により、活気がすっかり消え失せていた。
「ルシアン様。使用人たちが話しておりましたよ? イレーネ様はいつ頃この屋敷に戻られるのだろうと」
書斎で仕事をしているルシアンに紅茶を淹れに来たリカルドが声をかける。
「さぁな。半月程滞在すると言っていたから、まだ戻って来ないのではないか?」
ペンを走らせながらルシアンが答える。
「それで、イレーネさんからは連絡が来ているのですか?」
その言葉にルシアンの動きがピタリと止まる。
「電話が来ている様子も無ければ、お手紙も届いてはおりませんよね」
「そうだな……だが、便りがないということは、元気でいる証拠なのではないか?」
ルシアンは相変わらず顔を上げないまま、黙々と仕事をしている。そんなルシアンの手元を見ながらリカルドが声をかけた。
「ルシアン様」
「何だ?」
「何故、この書類にまでサインをしているのですか? これは取引先から受けとった書類でサインは必要ありませんよね?」
「え!? あ!」
慌てて書類を避けるルシアン。
「やはり、ルシアン様もイレーネ様から連絡が来ないので気がかりで仕方ないのでしょう? 心配していないふりをしてもみえみえですよ?」
「う、うるさい! お前が先程から話しかけてくるから間違えただけだ! 妙な勘ぐりをするのはやめろ!」
「そうでしょうか? でもその証拠に、ここ1週間ルシアン様は外出せずに屋敷に閉じこもっているではありませんか。イレーネさんからの連絡を待っているからですよね?」
「違う! 片付けなければならない書類が山積みだからだ! そ、それに閉じこもってばかりではないぞ? ちゃんと外へ出て仕事だってしている!」
しかし、それでもリカルドは食い下がってくる。
「確かに外出はなさっておりますが、遅くても3時間以内には戻ってこられておりますよね? しかも毎日『おい、俺宛に手紙が届いていないか?』とメッセンジャーに尋ねているのを知らないとでも思っているのですか?」
「うっ!」
ここまで問い詰められれば、さすがのルシアンも何も言い返せない。
「そ、それは……」
しかし、リカルドはルシアンの言い訳を聞こうともせずにため息をつく。
「はぁ〜……イレーネさん。本当にあなたはどうしてしまったのでしょう? 当主様に電話をいれても、イレーネさんは元気にしていると言って電話に出してもくれないし……」
その言葉にルシアンは耳を疑う。
「は……? リカルド……。 お、お前……今、何と言った? 祖父に電話を入れていたのか?」
「ええ、ルシアン様が御当主様に連絡を入れてくださらないからですよ。 だとしたら、この屋敷の執事である私がいれるしかないじゃありませんか!」
「な、何だって〜! リカルド! この俺に断りもなく、勝手な真似をするな!」
怒りのあまり、立ち上がるルシアン。しかし幼馴染の執事リカルドは引かない。
「ルシアン様が動かないから、勝手な真似をするしか無いのですよ!」
「はぁ!? ふざけるな!」
「ふざけてなどおりません! 至って本気です!」
「本気だと!? なおさら悪い!」
こうして主と執事の口論が始まった。
しかし、2人はまだ知らない。
イレーネがルシアンに連絡を入れない、その理由を――