はじめまして、期間限定のお飾り妻です
89話 その頃のイレーネ
リカルドがイレーネの身を案じ、ルシアンが仕事も手につかない? 頃――
イレーネはマイスター伯爵とサンルームで午前のティータイムを楽しんでいた。
「どうだね? イレーネ嬢。マイスター家の紅茶は」
「はい、香りも良くて美味しいです。流石は有名ブランドの紅茶ですね」
紅茶の香りを吸い込むと、イレーネは笑みを浮かべた。
「そうか、そうか。それは良かった。何しろ我が会社が創立した当時に初めて生産した茶葉で歴史のある紅茶だからな」
「それにしても素晴らしいですね。マイスター家では150年も歴史のある紅茶を作り続けているのですから」
感心した様子で様子でイレーネは伯爵を見つめる。
「シエラ家だって、ワインを作っていたのだろう? 大したものではないか」
「そんなことありませんわ。祖父の代でワイナリーは終わってしまいましたから。私が男性だったならワイナリーを残せたかもしれませんけど」
少しだけしんみりした様子で紅茶を飲むイレーネ。
「だが、きっとイレーネ嬢の祖父は君という孫娘を誇りに思っていたに違いない。何しろ、しっかり者で気立ても良いからな」
「そうでしょうか……? でもそう、仰っていただけるなんて光栄です。ところで伯爵様」
「何だね?」
「本当に私の方から、ルシアン様に連絡を入れなくても良いのでしょうか? こちらへ滞在してから、もう1週間になりますのに」
するとマイスター伯爵が豪快に笑う。
「ハッハッハッ! 良いのだよ! 少し位心配させてやきもきさせた方が、あいつにとってはな!」
「そいうものなのでしょうか……?」
(ルシアン様のことが気がかりだけど……でも、マイスター伯爵様に気に入られることが先決だものね。ここは伯爵様の言う通りにしましょう)
イレーネは自分の中で結論づけた。
「そうですね。少し位ルシアン様に心配していただいたほうが良いかもしれませんわね?」
「ああ、そうだとも。中々話の分かる娘ではないか。それで? 今日は何をして過ごすつもりかね?」
「本日もお城を見学に行こうと思っております。確かこの城からほど近い、ガゼボの美しいお城がありましたよね?」
「ああ、あそこか。そう言えば、イレーネ嬢はあの城のガゼボを随分気に入っていたようだしな」
マイスター伯爵はイレーネが宿泊した翌日から、自分の所有する城を全て案内していたのだ。
「はい。私、ガゼボにずっと憧れていたのです。また見学させて頂けますか?」
「勿論だ。それでは馬車を出すように命じよう」
するとイレーネは首を振った。
「いいえ、とんでもありませんわ。私などに馬車を出していただくなんて」
「なら、どうやってあの城まで行くつもりだ? ここから5Kmは離れているぞ?」
「美しい景色を眺めながら歩いていこうと思います」
その言葉に伯爵は目を見開く。
「何だと! あ、歩くだと? あの城までか!?」
「はい、歩くのはとても慣れておりますので5K位どうってことありません」
「そうか……? だが、歩きたいのを無理に反対するわけにもいかないし……分かった。イレーネ嬢の自由にするといい」
「ありがとうございます! マイスター伯爵様!」
こうして、イレーネは伯爵の許可を得て片道5Kの道のりを歩いて城に向かうことになった。
****
――午後2時
イレーネは美しい木立の中を、1時間半歩いて城に到着した。
「着いたわ。フフフ……本当に素晴らしいお城ね」
この城はマイスター伯爵の城の離れとして使用されている、2階建ての小さな城だった。
「私の実家よりは大きいけれども、こんなに小さなお城があるなんて素敵だわ。しかもとても美しいし」
イレーネは鼻歌を歌いながら、早速城の中庭にあるガゼボを目指して歩き出した。
そのとき。
「君、そんなところで何をしているんだ? ここはマイスター伯爵家の所有地だぞ」
「え?!」
不意に背後から声をかけられ、驚いて振り向くイレーネ。
するとイレーネから少し離れた場所で、品の良いスーツ姿の青年が、じっとこちらを見つめて立っていた――
イレーネはマイスター伯爵とサンルームで午前のティータイムを楽しんでいた。
「どうだね? イレーネ嬢。マイスター家の紅茶は」
「はい、香りも良くて美味しいです。流石は有名ブランドの紅茶ですね」
紅茶の香りを吸い込むと、イレーネは笑みを浮かべた。
「そうか、そうか。それは良かった。何しろ我が会社が創立した当時に初めて生産した茶葉で歴史のある紅茶だからな」
「それにしても素晴らしいですね。マイスター家では150年も歴史のある紅茶を作り続けているのですから」
感心した様子で様子でイレーネは伯爵を見つめる。
「シエラ家だって、ワインを作っていたのだろう? 大したものではないか」
「そんなことありませんわ。祖父の代でワイナリーは終わってしまいましたから。私が男性だったならワイナリーを残せたかもしれませんけど」
少しだけしんみりした様子で紅茶を飲むイレーネ。
「だが、きっとイレーネ嬢の祖父は君という孫娘を誇りに思っていたに違いない。何しろ、しっかり者で気立ても良いからな」
「そうでしょうか……? でもそう、仰っていただけるなんて光栄です。ところで伯爵様」
「何だね?」
「本当に私の方から、ルシアン様に連絡を入れなくても良いのでしょうか? こちらへ滞在してから、もう1週間になりますのに」
するとマイスター伯爵が豪快に笑う。
「ハッハッハッ! 良いのだよ! 少し位心配させてやきもきさせた方が、あいつにとってはな!」
「そいうものなのでしょうか……?」
(ルシアン様のことが気がかりだけど……でも、マイスター伯爵様に気に入られることが先決だものね。ここは伯爵様の言う通りにしましょう)
イレーネは自分の中で結論づけた。
「そうですね。少し位ルシアン様に心配していただいたほうが良いかもしれませんわね?」
「ああ、そうだとも。中々話の分かる娘ではないか。それで? 今日は何をして過ごすつもりかね?」
「本日もお城を見学に行こうと思っております。確かこの城からほど近い、ガゼボの美しいお城がありましたよね?」
「ああ、あそこか。そう言えば、イレーネ嬢はあの城のガゼボを随分気に入っていたようだしな」
マイスター伯爵はイレーネが宿泊した翌日から、自分の所有する城を全て案内していたのだ。
「はい。私、ガゼボにずっと憧れていたのです。また見学させて頂けますか?」
「勿論だ。それでは馬車を出すように命じよう」
するとイレーネは首を振った。
「いいえ、とんでもありませんわ。私などに馬車を出していただくなんて」
「なら、どうやってあの城まで行くつもりだ? ここから5Kmは離れているぞ?」
「美しい景色を眺めながら歩いていこうと思います」
その言葉に伯爵は目を見開く。
「何だと! あ、歩くだと? あの城までか!?」
「はい、歩くのはとても慣れておりますので5K位どうってことありません」
「そうか……? だが、歩きたいのを無理に反対するわけにもいかないし……分かった。イレーネ嬢の自由にするといい」
「ありがとうございます! マイスター伯爵様!」
こうして、イレーネは伯爵の許可を得て片道5Kの道のりを歩いて城に向かうことになった。
****
――午後2時
イレーネは美しい木立の中を、1時間半歩いて城に到着した。
「着いたわ。フフフ……本当に素晴らしいお城ね」
この城はマイスター伯爵の城の離れとして使用されている、2階建ての小さな城だった。
「私の実家よりは大きいけれども、こんなに小さなお城があるなんて素敵だわ。しかもとても美しいし」
イレーネは鼻歌を歌いながら、早速城の中庭にあるガゼボを目指して歩き出した。
そのとき。
「君、そんなところで何をしているんだ? ここはマイスター伯爵家の所有地だぞ」
「え?!」
不意に背後から声をかけられ、驚いて振り向くイレーネ。
するとイレーネから少し離れた場所で、品の良いスーツ姿の青年が、じっとこちらを見つめて立っていた――