はじめまして、期間限定のお飾り妻です
94話 出ていけ!!
書斎ではマイスター家の現当主、ジェームズ伯爵の声が響き渡っていた。
「何!? 何故ゲオルグとイレーネ嬢が一緒にやってきたのだ!?」
イレーネがゲオルグと共に現れたことで伯爵の驚きは隠せない。
「ええ、お祖父様に会う前に『クライン』城に行っていたのですよ」
肩をすくめて答えるゲオルグ。
『クライン』城とは、先程イレーネとゲオルグが出会った城のことだ。
「そうだったのか? だが何故、すぐにこの城に来なかったのだ? お前の為に今日は予定を空けていたのだぞ?」
どこか非難めいた眼差しを送る伯爵。
「申し訳ございません。実は今、新しい事業計画を立てておりまして自分の好きなあの城で構想を練っていたのですよ。お祖父様に提案するためにね」
「また、くだらない事業計画では無いだろうな?」
「ええ勿論です。今度こそお祖父様のお気に召すこと間違いないです」
得意げにスーツのポケットから封筒を取り出すゲオルグ。
一方のイレーネは先程から2人のやり取りを黙って見ていた。
(お二人の話なのに、私この場にいて良いのかしら? それにしても意外だったわ。ゲオルグ様は伯爵の前では『お祖父様』と言うのね。私の前では『爺さん』と言っていたのに……)
「分かった、ならその計画書とやらを出せ。一応見てやろうじゃないか」
「ええ、是非御覧下さい。今度こそお祖父様の納得のいく事業だと思いますよ。確か跡継ぎになる条件には、『仕事で成功を収めた者』も含まれていましたよね?」
ゲオルグはチラリとイレーネを見る。
「ああ、確かにそう言ったな。跡継ぎ候補は平等に扱わなければならないから……ん? な、何だ……この事業計画書は……」
伯爵の肩がブルブル震え始めた。
「ええ、どうです? 素晴らしい計画書でしょう? これでマイスター伯爵家も、益々発展していくに間違いないですよ」
自慢気に胸をそらすゲオルグ。しかし、得意になっている彼は気づいていない。伯爵が震えているのは怒りのためによるものだということを。
「あの、伯爵様。どうされましたか?」
異変に気づいたイレーネが声をかけると、伯爵は顔を上げた。
「ゲオルグ……お前、この事業計画……本気で言っているのか?」
怒りを抑えながら尋ねる伯爵。
「ええ、勿論です。本気も本気ですよ。何しろ、次期当主の座がかかっているのですからね」
すると……。
「ふ……ふざけるなーっ!!」
伯爵が大声を上げた。その迫力は物凄いもので、窓ガラスがビリビリと震えるほどだった。
「ヒッ!! な、何故怒るのですか!?」
(すごい! 伯爵様は高齢にも関わらず、物凄い声量だわ。きっと身体が丈夫なのね。私のお祖父様とは大違いだわ)
怯えるゲオルグ、そして感心するイレーネ。
「怒るに決まっているだろう!! 一体何だ!? これは! 茶葉の生産工場を廃止して、そこにカジノを建てろだと!? お前は由緒正しいマイスター家を汚すつもりか!! 本気でそんなことを考えていたのか!!」
「まぁ、カジノですか?」
イレーネは目を丸くする。
「ほ、本気ですよ! い、今海の向こうの大陸ではカジノが大流行しているんですよ? 観光客も増えるし、懐も潤う。それにこの『ヴァルト』は貴族が集まる避暑地。ここにカジノを建設すれば、もっともっと儲かりますよ?」
「ふざけるな! 本気で言っているのなら、尚更質が悪い!! 客をカモにするような事業をこの私が許すとでも思っているのか!! とっとと出ていけ!」
眉間に青筋を立てて怒鳴りまくる伯爵。そしてその様子に再び感心するイレーネ。
(まぁ。本当にお元気で迫力があるわ。これならルシアン様も怯えるのは無理もないわね)
「そ、そんな! ここへ来るまでにどれ程の時間を有したと思っているのですか!? 汽車で丸1日かけて来たのですよ!」
情けない声をあげるゲオルグ。
「黙れゲオルグ! 縁を切られたくなければとっとと失せろ!」
そして、あろうことか伯爵は立ち上がると机の上に置かれた木製のペン立てを握りしめた。
(まぁ! あれを伯爵様は投げるつもりかしら?)
イレーネは傍観者に徹している。
「ひいぃぃ!! う、失せます!! すぐに失せますから!!」
ゲオルグは顔面蒼白になり、逃げるように書斎を飛び出していった。
「ふ〜は〜……ま、全くあいつときたら……」
椅子にドサリと崩れ落ちるように座る伯爵。
「大丈夫ですか? マイスター伯爵様」
イレーネが心配そうに声をかけた。
「あ、ああ……大丈夫だ。それにしてもイレーネ嬢には、お恥ずかしいところをみせてしまったようだな?」
「そんなことお気になさらないで下さい。私はもう身内のような者ではありませんか。ゲオルグ様なりにも必死に頑張られたと思いますよ? 少なくとも私はそう感じました」
さり気なく自分をアピールし、ゲオルグのフォローも忘れない。
「そうか……? 確かにイレーネ嬢の言う通り、今回のゲオルグは頑張ったと思うが……カジノとはな。本当にあいつは享楽的な生き方ばかり考えて困ったものだ。やはり、次期当主はルシアンで決まりかもな……ゲオルグにはルシアンのフォローに回ってもらうか……」
ため息をつく伯爵。
「ええ。私も伯爵様の意見に賛成ですわ」
そしてイレーネは笑みを浮かべるのだった――
「何!? 何故ゲオルグとイレーネ嬢が一緒にやってきたのだ!?」
イレーネがゲオルグと共に現れたことで伯爵の驚きは隠せない。
「ええ、お祖父様に会う前に『クライン』城に行っていたのですよ」
肩をすくめて答えるゲオルグ。
『クライン』城とは、先程イレーネとゲオルグが出会った城のことだ。
「そうだったのか? だが何故、すぐにこの城に来なかったのだ? お前の為に今日は予定を空けていたのだぞ?」
どこか非難めいた眼差しを送る伯爵。
「申し訳ございません。実は今、新しい事業計画を立てておりまして自分の好きなあの城で構想を練っていたのですよ。お祖父様に提案するためにね」
「また、くだらない事業計画では無いだろうな?」
「ええ勿論です。今度こそお祖父様のお気に召すこと間違いないです」
得意げにスーツのポケットから封筒を取り出すゲオルグ。
一方のイレーネは先程から2人のやり取りを黙って見ていた。
(お二人の話なのに、私この場にいて良いのかしら? それにしても意外だったわ。ゲオルグ様は伯爵の前では『お祖父様』と言うのね。私の前では『爺さん』と言っていたのに……)
「分かった、ならその計画書とやらを出せ。一応見てやろうじゃないか」
「ええ、是非御覧下さい。今度こそお祖父様の納得のいく事業だと思いますよ。確か跡継ぎになる条件には、『仕事で成功を収めた者』も含まれていましたよね?」
ゲオルグはチラリとイレーネを見る。
「ああ、確かにそう言ったな。跡継ぎ候補は平等に扱わなければならないから……ん? な、何だ……この事業計画書は……」
伯爵の肩がブルブル震え始めた。
「ええ、どうです? 素晴らしい計画書でしょう? これでマイスター伯爵家も、益々発展していくに間違いないですよ」
自慢気に胸をそらすゲオルグ。しかし、得意になっている彼は気づいていない。伯爵が震えているのは怒りのためによるものだということを。
「あの、伯爵様。どうされましたか?」
異変に気づいたイレーネが声をかけると、伯爵は顔を上げた。
「ゲオルグ……お前、この事業計画……本気で言っているのか?」
怒りを抑えながら尋ねる伯爵。
「ええ、勿論です。本気も本気ですよ。何しろ、次期当主の座がかかっているのですからね」
すると……。
「ふ……ふざけるなーっ!!」
伯爵が大声を上げた。その迫力は物凄いもので、窓ガラスがビリビリと震えるほどだった。
「ヒッ!! な、何故怒るのですか!?」
(すごい! 伯爵様は高齢にも関わらず、物凄い声量だわ。きっと身体が丈夫なのね。私のお祖父様とは大違いだわ)
怯えるゲオルグ、そして感心するイレーネ。
「怒るに決まっているだろう!! 一体何だ!? これは! 茶葉の生産工場を廃止して、そこにカジノを建てろだと!? お前は由緒正しいマイスター家を汚すつもりか!! 本気でそんなことを考えていたのか!!」
「まぁ、カジノですか?」
イレーネは目を丸くする。
「ほ、本気ですよ! い、今海の向こうの大陸ではカジノが大流行しているんですよ? 観光客も増えるし、懐も潤う。それにこの『ヴァルト』は貴族が集まる避暑地。ここにカジノを建設すれば、もっともっと儲かりますよ?」
「ふざけるな! 本気で言っているのなら、尚更質が悪い!! 客をカモにするような事業をこの私が許すとでも思っているのか!! とっとと出ていけ!」
眉間に青筋を立てて怒鳴りまくる伯爵。そしてその様子に再び感心するイレーネ。
(まぁ。本当にお元気で迫力があるわ。これならルシアン様も怯えるのは無理もないわね)
「そ、そんな! ここへ来るまでにどれ程の時間を有したと思っているのですか!? 汽車で丸1日かけて来たのですよ!」
情けない声をあげるゲオルグ。
「黙れゲオルグ! 縁を切られたくなければとっとと失せろ!」
そして、あろうことか伯爵は立ち上がると机の上に置かれた木製のペン立てを握りしめた。
(まぁ! あれを伯爵様は投げるつもりかしら?)
イレーネは傍観者に徹している。
「ひいぃぃ!! う、失せます!! すぐに失せますから!!」
ゲオルグは顔面蒼白になり、逃げるように書斎を飛び出していった。
「ふ〜は〜……ま、全くあいつときたら……」
椅子にドサリと崩れ落ちるように座る伯爵。
「大丈夫ですか? マイスター伯爵様」
イレーネが心配そうに声をかけた。
「あ、ああ……大丈夫だ。それにしてもイレーネ嬢には、お恥ずかしいところをみせてしまったようだな?」
「そんなことお気になさらないで下さい。私はもう身内のような者ではありませんか。ゲオルグ様なりにも必死に頑張られたと思いますよ? 少なくとも私はそう感じました」
さり気なく自分をアピールし、ゲオルグのフォローも忘れない。
「そうか……? 確かにイレーネ嬢の言う通り、今回のゲオルグは頑張ったと思うが……カジノとはな。本当にあいつは享楽的な生き方ばかり考えて困ったものだ。やはり、次期当主はルシアンで決まりかもな……ゲオルグにはルシアンのフォローに回ってもらうか……」
ため息をつく伯爵。
「ええ。私も伯爵様の意見に賛成ですわ」
そしてイレーネは笑みを浮かべるのだった――