はじめまして、期間限定のお飾り妻です
99話 耐える? ルシアン
2人はソファに向かい合わせに座って話をしていた。ただし、イレーネが一方的に。
「……そうそう。そこで出会った猫なのですが、毛がふわふわで頭を撫でて上げるとゴロゴロ喉を鳴らしたのですよ。あまりにも可愛くて、持っていたビスケットを分けてあげようと思ったのです。あ、ちなみにそのクッキーの味はレモン味だったのでしす。子猫にレモンなんて与えても良いのか一瞬迷いましたが、美味しそうに食べていましたわ」
「そ、そうか……それは良かったな……」
ルシアンは引きつった笑みを浮かべながらイレーネの話をじっと我慢して聞いていた。
(いつまでイレーネの話は続くのだ? もう47分も話し続けているじゃないか……。こんなにおしゃべりなタイプだとは思わなかった……)
チラリと腕時計を確認しながらルシアンは焦れていた。早く祖父との話を聞きたいのに、いつまで経ってもその話にならない。
何度か話を遮ろうとは考えた。しかし、その度にメイド長の言葉が頭の中で木霊する。
『自分の話をするのではなく、女性の話を先に聞いて差し上げるのです』
という言葉が……。
――そのとき。
ボーンボーンボーン
部屋に17時を告げる振り子時計の音が鳴り響いた。その時になり、初めてイレーネは我に返ったかのようにルシアンに謝罪した。
「あ、いけない! 私としたことがルシアン様にお話するのが楽しくて、つい自分のことばかり話してしまいました。大変申し訳ございませんでした」
「何? 俺に話をするのが楽しかったのか? それはつまり俺が聞き上手ということで良いのか?」
ルシアンの顔に笑みが浮かぶ。
「はい、そうですね。生まれて初めて、避暑地でリゾート気分を味わえたので、つい嬉しくて話し込んでしまいました」
「そうか、そう思ってもらえたなら光栄だ。では、重要な話に入るその前に……ブリジット嬢とどのような会話をしたのだ?」
ルシアンはブリジットとの会話が気になって仕方がなかったのだ。
「え? ブリジット様とですか?」
首を傾げるイレーネ。
「ああ、そうだ。随分彼女と親しそうだったから……な……」
そこまで口にしかけ、ルシアンは自分が失態を犯したことに気づいた。
『女性同士の会話にあれこれ首を突っ込まれないほうがよろしいかと思います』
(そうだ! メイド長にそう言われていたはずなのに……! ついブリジット嬢と交わした会話に首を突っ込もうとしてしまった!)
「そう言えば、ブリジット様からオペラに誘われました。とても有名な女性歌手がヒロイン出演しているそうです。確かその方のお名前は……」
「いい! 大丈夫だ! それ以上報告はしなくていいんだ!」
ルシアンは慌てて止めた。
「え? よろしいのですか?」
「ああ、いいんだ。イレーネは『デリア』に来たばかりで知り合いもいないだろう。ブリジット嬢と良い友人関係を築けているようで何よりだ」
「はい、ありがとうございます。ではこれからもブリジット様とは交流を深めたいと思います」
イレーネは素直に返事をする。
「是非、そのまま交流を続けてくれ。それで祖父の方はどうだった? 後継者問題の件で何か話していなかったか?」
イレーネの好感度を上げるべく、笑顔で尋ねるルシアン。
「あ、そう言えば一つご報告がありますわ」
「報告? どんなことだ?」
「はい、実はもうひとりの後継者候補のゲオルグ様と偶然お会いしたのです」
その名前に固まるルシアン。
「……は?」
(ゲオルグ……? 今、ゲオルグと言ったのか? い、いや。まさか……そんなはずないだろう……きっと俺の聞き間違えだろう)
「すまない。イレーネ嬢。今何と言ったのだ? どうやら聞き間違えをしているみたいだから……もう一度教えてくれ」
「はい、『ヴァルト』で、ゲオルグ様とお会いしました。マイスター伯爵様に呼び出されていたそうです」
「な、な、な……何だって〜!!」
ルシアンが椅子から立ち上がったのは……言うまでもない――
「……そうそう。そこで出会った猫なのですが、毛がふわふわで頭を撫でて上げるとゴロゴロ喉を鳴らしたのですよ。あまりにも可愛くて、持っていたビスケットを分けてあげようと思ったのです。あ、ちなみにそのクッキーの味はレモン味だったのでしす。子猫にレモンなんて与えても良いのか一瞬迷いましたが、美味しそうに食べていましたわ」
「そ、そうか……それは良かったな……」
ルシアンは引きつった笑みを浮かべながらイレーネの話をじっと我慢して聞いていた。
(いつまでイレーネの話は続くのだ? もう47分も話し続けているじゃないか……。こんなにおしゃべりなタイプだとは思わなかった……)
チラリと腕時計を確認しながらルシアンは焦れていた。早く祖父との話を聞きたいのに、いつまで経ってもその話にならない。
何度か話を遮ろうとは考えた。しかし、その度にメイド長の言葉が頭の中で木霊する。
『自分の話をするのではなく、女性の話を先に聞いて差し上げるのです』
という言葉が……。
――そのとき。
ボーンボーンボーン
部屋に17時を告げる振り子時計の音が鳴り響いた。その時になり、初めてイレーネは我に返ったかのようにルシアンに謝罪した。
「あ、いけない! 私としたことがルシアン様にお話するのが楽しくて、つい自分のことばかり話してしまいました。大変申し訳ございませんでした」
「何? 俺に話をするのが楽しかったのか? それはつまり俺が聞き上手ということで良いのか?」
ルシアンの顔に笑みが浮かぶ。
「はい、そうですね。生まれて初めて、避暑地でリゾート気分を味わえたので、つい嬉しくて話し込んでしまいました」
「そうか、そう思ってもらえたなら光栄だ。では、重要な話に入るその前に……ブリジット嬢とどのような会話をしたのだ?」
ルシアンはブリジットとの会話が気になって仕方がなかったのだ。
「え? ブリジット様とですか?」
首を傾げるイレーネ。
「ああ、そうだ。随分彼女と親しそうだったから……な……」
そこまで口にしかけ、ルシアンは自分が失態を犯したことに気づいた。
『女性同士の会話にあれこれ首を突っ込まれないほうがよろしいかと思います』
(そうだ! メイド長にそう言われていたはずなのに……! ついブリジット嬢と交わした会話に首を突っ込もうとしてしまった!)
「そう言えば、ブリジット様からオペラに誘われました。とても有名な女性歌手がヒロイン出演しているそうです。確かその方のお名前は……」
「いい! 大丈夫だ! それ以上報告はしなくていいんだ!」
ルシアンは慌てて止めた。
「え? よろしいのですか?」
「ああ、いいんだ。イレーネは『デリア』に来たばかりで知り合いもいないだろう。ブリジット嬢と良い友人関係を築けているようで何よりだ」
「はい、ありがとうございます。ではこれからもブリジット様とは交流を深めたいと思います」
イレーネは素直に返事をする。
「是非、そのまま交流を続けてくれ。それで祖父の方はどうだった? 後継者問題の件で何か話していなかったか?」
イレーネの好感度を上げるべく、笑顔で尋ねるルシアン。
「あ、そう言えば一つご報告がありますわ」
「報告? どんなことだ?」
「はい、実はもうひとりの後継者候補のゲオルグ様と偶然お会いしたのです」
その名前に固まるルシアン。
「……は?」
(ゲオルグ……? 今、ゲオルグと言ったのか? い、いや。まさか……そんなはずないだろう……きっと俺の聞き間違えだろう)
「すまない。イレーネ嬢。今何と言ったのだ? どうやら聞き間違えをしているみたいだから……もう一度教えてくれ」
「はい、『ヴァルト』で、ゲオルグ様とお会いしました。マイスター伯爵様に呼び出されていたそうです」
「な、な、な……何だって〜!!」
ルシアンが椅子から立ち上がったのは……言うまでもない――