告白

係長のプロポーズ


   係長のプロポーズ

「ここ、バリが残っているだろ」
リーダーの怒鳴り声が、工場内に響き渡った。拓也は、ハイとうなづいてはみたものの、何を言っているのか理解に苦しむ。現場では、バリ残りの不具合が、メーカーで発生していて、社内の在庫のチェックが行われていた。拓也も、検査・修正に追われていたが、見よう見まねで作業をやっている。会社から、五名が四国の高知県に、メーカーでの在庫の検査に抜擢されて出張する事になった。拓也も、メンバーに加わっていた。拓也は、生まれてから初めての、仕事での出張に、ワクワクしていた。五名は、リーダーの車で、明日の夜明けと共に出発である。現場へ到着すると、今日は、旅館に泊まり、明日はメーカー内での在庫の検査に追われるその日は各自、部屋でくつろいだ。‪翌朝・目が覚めると、昨日の晩はやたら、どこかの部屋で一日中テレビの音が大きくて寝付けなかったと、リーダーのいない時に話題になった。‬‬‬‬原因は、リーダーの部屋であった。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
「あの、リーダー知ってるか。たまに、会社で休憩前になると、便所に行くけども、十分はやってるぞ。あのリーダーには、腹が立つよな」
現場に到着した。拓也らは仕事にとりかかった。
そこで、拓也は作業をやりながら、不具合の状況を把握した。
「これが、原因か」
不具合を出したのは、拓也が原因であったが、この事は、胸の中に閉まって置くことにした。2日間の在庫の検査を終えて、無事会社へと帰ってきた。拓也は、成人式を迎えたばかりの、金村鉄平と仲がよかった。今日は、鉄平と、女に目のない同僚と三人で、繁華街に飲みに行く約束の日である。若い2人は、軟派目的であった。35才になる拓也はこれまで、軟派などはやった事はなく、これから起こる出来事にチョッピリ期待していた。三人は、まづ居酒屋に出向いた。ジョッキーで軽く一杯を飲み干した。鉄平の目は、向のテーブルに座っている女性に釘付けになっていた。様子を伺っている。拓也は若い2人の、ひそひそ話を聞きながら、なんか行動に出るのかなと期待していた。しかし、‪一時‬間が経過し女性たちは帰っていった。拓也らも店を後にした。今度は、2人はテレクラに行くらしく、車を降りて電話している。‬‬‬拓也は期待に胸を膨らませていたが、結局・軟派出来ずに戻ってきた。三人は、夜の繁華街を後にした。拓也には、彼女はいない。彼女と付き合うよりも、パチンコ三昧の日々を送っていた、‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬ 入社から、半年あまりがあっという間に過ぎていった。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
美咲早苗とは、週に一回程事務所から出て来るのを目撃する位であった。拓也らが、休憩所で休んでいると、同僚が話のネタをもってきた。
「おいっ・事務所の美咲さんが係長の、プロポーズを断ったんだとよ」
拓也は、あの女性の話しかと、上の空で聞いていた。翌日、ひとりで、工場の外で黙々と仕事をしていると、例の美咲早苗が横を通り過ぎていった。独り言なのか
「かわいそう」
と言う声が耳に入った。しかし、気にせず仕事に没頭している拓也であった。終了間際に、拓也は事務所に用があり、入り口の扉を開けようとしたら、女性陣の話し声が聞こえてきた。
「係長の、プロポーズ断って」
早苗の声が聞こえてきた
「やがて、30と言っても、誰でもいいわけではないわ」
「じゃ何・玉の輿、狙ってるの」
「ガチャン」
「あっ失礼」
拓也と早苗の目が合った。入社してから半年振りに声をかけた。
「お疲れ様」
週末は、別府への社員旅行である。

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