お七~天涯の少女~

天和の大火

年明けて、1682年1月25日。

正月は過ぎ去ったものの、未だ寒さの真っ只中にあるこの季節。八百屋のある部屋では、布団を被って震えているお七がいた。

「おかっつぁん、寒ぅい・・・」

「我慢しなさい、冬は寒いもんだよ!」

起きるのを渋ってなかなか布団から出ようとしないお七の布団を、おきみは思い切りひっぺはがす。

「ほら、さっさと起きてしたくしなさい!」

「寒いものは寒いも~ん」

再び布団を被って眠ろうとするお七の尻を、おきみは力任せに引っ叩いた。お七の眠そうな顔が、その痛さに歪む。

「もう、おかっつぁん、痛い!」

「ほらほら、お客さんが待ってるよ!うだうだ言ってないで、早く着替えな!」

文句を言いながらも、お七は渋々起き出す。そんなお七を見て、おきみはハアッとため息をついた。

そのとき――。

「・・・?何か、外、騒がしくないかい?」

妙な不安に駆られたおきみは、お七の部屋を出て店先へ向かう。

そこには――

「火事だ、火事だぁ!」

大荷物を抱えて、逃げ惑う人々。ゴンゴンと打ち鳴らされる火の見櫓。

・・・火事。

「何してんだいおきみさん、火事だよ!早く逃げな!」

隣人のお富が、大きな風呂敷包みを背負って叫んでいる。しばらくその場で唖然としていたおきみだったが、急に我に帰り、慌てて店の中へ飛び込んだ。



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