お七~天涯の少女~
真っ青になったおきみがまず向かったのは、太兵衛の部屋だった。自室で帳面をつけていた太兵衛は、ふすまを開けるなり泣きそうになっているおきみに目を丸くした。

「どうした?」

「あんた、あんた、火事だよ!」

「何だって!?」

おきみのただならぬ気配に不審さを感じた太兵衛は、すぐさま部屋を飛び出して店先へと向かった。そして、ことの事態を理解した太兵衛は、傍らで半泣き状態になっているおきみに言いつけた。

「お前は、お七と使用人たちにこのことを伝え、簡単な荷造りをさせて、先に外に出ているように。わしは生活と店に必要なものをまとめる。急げ!」

「はい!」

恐ろしさのあまり、声が震えているおきみだったが、すぐさま店の中へと戻り、太兵衛に言われた通り、お七たちにこのことを伝えに走って行った。

道は、逃げ惑う人々でごった返している。一人そこに立っている太兵衛は、

「吉祥寺が一番非難に最適か・・・」

とつぶやき、自身も店の中へと駆け込んで行った。




「皆、揃ったな。誰一人として、残っている者はいないな。行くぞ!」

大きな荷車を背に、太兵衛は大声を上げる。周りには、同じように大きな風呂敷を背負ったおきみ、お七、使用人の泰三、お百合、お美代がいる。

八百屋とはいえ、日々繁盛していた太兵衛の店の荷物は、半端なく多かった。生活に必要とされた荷物も、それだけ捨てきれない物が多く、高価な物ばかりだったのだ。

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