お七~天涯の少女~
その為、予想よりも遥かにてこずってしまった。

しかし、太兵衛やおきみやお七だけでなく、泰三・お百合・お美代も加わっての作業だったので、何とか一家だけ取り残される、ということは無かったらしく、辺りにはまだ逃げている途中の人々も多かった。

お七は、起きて来て早々、半狂乱のおきみに「火事、火事」と騒がれ、挙句の果てには「必要な物だけまとめろ」と急かされたためか、少しふくれていた。

しかし、目の前で繰り広げられている修羅場を目にしたとたん、やはり親子だからだろうか、おきみと同じく真っ青になって動けなくなってしまっていた。

「お、お七さま、ご心配召されませぬよう。お百合が、何があろうともお守りしてさしあげます」

「お美代も、か、必ずやお守りいたします!」

傍らで同じように風呂敷包みを背負い、同じように震えているお百合とお美代の言葉を聞き、お七も恐ろしさで引きつった笑みを浮かべる。

「あ、ありがとう、お百合、お美代」

うず高く荷物が積まれた荷車を背に、太兵衛が気合を入れ直して大声を張り上げる。

「火の手はもう間近だ。このまま行くと、きっと店も焼け落ちるだろう。避難場所は、ここから一番近い吉祥寺にする。行くぞ!」

「はい!」

皆はめいめいそう答えると、荷車を引っ張って動き出した太兵衛に従って歩き出す。

お七は、生まれ育ってきた八百屋に後ろ髪引かれ、思わず振り返った。

そのとき―――

「うわあああぁぁぁ!!!」

「キャアアアアーッ!!!」

突然店の二軒奥の家で悲鳴が上がり、ぐらっと傾いたかと思うと、一気に崩れ落ちたのだ。

「誰かっ、誰か助けて!私の娘が―!!」

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