お七~天涯の少女~
「え!?」

悲鳴を聞いて、崩れ落ちた家に目をやると、確かに家の残骸の下敷きになってしまっている子供がいる。子供からは血が流れ、体はピクリとも動かない。

助けなきゃ―――そう思って思わず駆け寄りそうになったお七の肩を、傍らにいた泰三が強くつかむ。

「!!泰三、何を・・・」

「お留まりくださいませ、お七さま!今は、逃げるのが先にございます!」

そう言って、一向に力をゆるめる気配は無い。

「でも、あの子が、このままだとあの子が―――」

"死んでしまう"という言葉は、泰三の大声によってかき消された。

「お七さま!他人にかまっていられる余裕はございません。火の手は、もうすぐそこまで迫っているのでございますぞ!」

泰三の叫び声に、お七はハッとして店の方を見やる。そこには、崩れ落ちた家の残骸から燃え移ってきた炎が、店全体を包み込んでいた。

メラメラと赤く激しく燃え、静まりそうな様子は全く感じられない。我が家が焼かれているという光景を前に、お七は絶望感のあまり、思わず倒れこみそうになる。そんなお七の体を、泰三がたくましい腕で支えた。

「・・・さ、早く、寺へ参りましょう!」

お七の後ろでは、太兵衛、おきみ、お百合、お美代が、お七と同じように、我が家を焼かれている悲惨な光景を目の当たりにし、立ちすくんでいた。

やがて、お七が16年間生まれ育ち、季節を共にしてきた八百屋は、赤い炎に包まれながら、大きな音と共に崩れ去った・・・。
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