お七~天涯の少女~

吉祥寺の寺小姓

お七たちが焼け出されたこの火事は、のちに「天和の大火」という名称で呼ばれることとなる大火事だった。

火元は、お七たちが住んでいたところから少し離れた寺だったという。

この火事が起こったことにより、お七の運命は、誰も予期せぬ方向へと引きずり込まれてゆくこととなる―――



お七たちが避難した吉祥寺は、八百屋から一番近く、それでいてしばらく住むには最適な広さを持った寺だった。

幸い火の手は追ってこず、お七たちは、ここでしばらく避難生活を送ることとなった。

「皆様、大変でございましたなあ。何も無いところではありますが、落ち着かれるまでしばらくここにて休まれよ。生活面では、何もご心配なさることはありませぬ」

火の手から逃げてきたお七たち6人を、和尚は温かく迎え入れる。荷車を引きながら逃れてきた太兵衛は、滴り落ちる汗を拭いながら、慈悲深い和尚の言葉にただただ感謝するばかり。

涙もろいおきみは、すでに目を潤ませていた。

「さあ、そちらのお嬢様方も、どうかその荷物は小姓たちに任せて、奥へお上がりください。庄之助、糠助、左五郎、皆様のお荷物をお持ちして」

「はい」

和尚が声を出すと、薄暗い寺の中から三人の若者が出てきて、めいめいに荷物を預かっている。


「お持ちいたします」

ふいに、傍らで声がした。見ると、三人出てきたうちの一人が、お七の風呂敷包みに手を添えている。

お七たちは、しばらく無言だった。

「お持ちいたします」

お七よりも遥かに背の高いその男は、何も言わないお七にしびれを切らしたのか、もう一度同じことを、同じ口調で言った。フッと我に帰ったお七は、ふいに男と目が合った。
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