秘めたるイケボは恋の予感?!





「何もなかった?」

「え」

「何もされなかった??」



放課後,いつものように初那くんの待つ教室へ向かうと,一日中何か言いたげに私たちを見ていた初那くんの尋問にあった。

私はその問いに,ふりふりと首を横にふる。

何かしたとしたら,それは私の方。

だって,私から抱き締めてしまったのだから。

思い出すと今さらに恥ずかしくて,目を伏せてしまう。

お互いに沈黙が生まれて,少しだけ気まずい。



「例えば,こんなこととか」



座っている正面から,唐突に抱き締められた。

若菜くんとは違う,全てが押し寄せるようなハグ。

香りも,抱き締められる感触も,初那くん自身の身体や体温も,何もかも。

そのとたん,ドックンと心臓が聞いたこともないような音を出した。



「……やっ」



思わず,貧弱ながら突き飛ばしてしまう。

直ぐに後悔したけど,謝るよりもまず混乱が先にたった。

何,今の。

どうしたの,私。

同じことを若菜くんがしたとしたなら。

きっとここまではならなかったと思う。

でも,だけど今のは。

すごく,どきどきして……だめだった。



「もう,飽きた? 俺の声じゃ物足りない?」



そんな,わけない。

でもどうして急にそんなこと



「若菜は絶対俺の方が勝手分かるのにわざわざ遥菜呼びつけてるし,遥菜も"アレ"最近全然言わなくなった」

「あれって……?」

「"だいすき"ってやつ」



拗ねたように動く唇を,思わずほっと眺めてしまった。

でも,あれ……?????

私,言ってない……っけ。

だってあんなに好きで,満足していて。

なのに,表現してなかった?



「まさか! 飽きてなんてない! 誤解だよ!! いつもすっごい満足してる! だい」



あれ。

どうして最後まで,言えないんだろう。

かあっと赤が押し寄せて,その先を言うのに抵抗がある。

私まさか,意識,してる?

他意はないって誰より自分が分かってるのに。

何より,今まで問題なく使えたのに。



「遥菜?」



そうやって,呼んじゃだめ。

高知くんは,初那くんになった。

そうだ,あの日から私は。

大好きを,つかえない。

……なんで?

目が潤む。

やっぱり……言えない。



「っはる」

「ごめんなさい!」



理由が分かったら,頭がまとまったら戻ってくるから。

私は瞳が潤む理由も,頬が熱い理由も分からずに教室を飛び出した。

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