中古物件
勝手に人の部屋に侵入してくる犯罪者にしては逃げも隠れもしないし、なにか理由でもあるのかもしれない。

少しだけ冷静になった太一は傘を下げて男と向き合った。
こうして立っていると太一と男はほとんど身長が同じであることがわかった。

体格も似ているから、髪型をにせれば後ろ姿では判断がつかなくなるかもしれない。
「その、富永さん? どうやってこの家に入ったんですか?」

その質問に相手の男は薄汚れたズボンのポケットから鍵を取り出した。
それは間違いなく家の鍵だったのだ。

太一は目を丸くして男を見つめる。
そういれば表札にかかれていた名字は富永だった気がする。

そう思い出してハッと息を飲んだ。
「もしかして、前にここに暮らしていた富永さん?」

「そうです。その富永です。この家は僕が建てて妻と一緒に暮らしていました。随分前に離婚して、この家からも出ていったんですけど……」
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