中古物件
ここまで図々しい富永にしては謙虚な発言だろう。
1日泊めてもらう代わりに掃除をした。

そういうことなんだと思った。
「ここは俺の家だ。お前の家じゃない」

それでも富永は顔を挙げない。
額を床に押し付けたまま、動こうとしない。

「僕が妻と離婚してこの家まで手放すことになったのは借金のせいなんです」
やがて誰も聞いていない身の上話をし始めた。

そんなのはどうでもいいから早く出ていってくれ。
そう思う反面、この奇妙な富永という人間がどんな風に生きてきたのか知りたくなった。

「僕の事業が失敗したのが原因です。だけど今は金があるんです。働いて借金を返済して、この家を買い戻したいと思って貯金だってしてきたんです」
なるほど。
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