中古物件
だから男は土下座する冨永を睨みつけた。
きっと常識人ならそうするだろうから。

床に額をへばりつけたまま、冨永は長々と自分の行く宛がないことを説明した。
そこで少しだけほだされたフリをした。

可愛そうな男だと、顔に出して伝えた。
『お願いします! 家の中のことはすべて僕がします! だからここにいさせてください!』

冨永の本性がほんの一瞬見えた瞬間だった。
1日泊めてほしいという話が、いつの間にかこの家にいさせてほしいに変わっている。

それを見たとき男は心の中でニヤリと笑った。
こいつは自分と同じような人種になれる可能性もあったかもしれない。

だけど冨永は道を踏み外さずにきただけ。
本質的なずる賢さや図々しさはよく似ている。

見た目だけでない共通点を見つけたときだった。
< 38 / 60 >

この作品をシェア

pagetop