中古物件
今だって、狭い部屋に本を奥スペースはないから、図書館を活用している。
『またいらしてください』

本を借りることなく外へ出る男へ向けて、カウンターの女性が快い声をかけてくれる。
もうすっかり顔なじみになっていた。

男は軽く会釈をして図書館を出た。
時刻は夕方4時を過ぎたころだ。

もう鍵の付替えは終わって、冨永は晩御飯の準備でもしているだろうか。
食材は昨日ミカが沢山購入してきていたので、まだ冷蔵庫にあるはずだ。

だから冨永が買い物に出かけることはない。
そもそもあいつは徒歩であの家まで来ていたから、安易に外出はできないはずだった。

近所のスーパーへ行くのだって車で15分くらいはかかる場所だ。
あんな場所まで歩いてくるなんて、そうとうあの家に思入れがあったに違いない。

それなら、その家を返してやろうじゃないか。
永遠に、あいつのものにすればいい。

ひと気がないのを確認した男は立ち止まり、スマホを取り出した。
ここで連絡するのは普通なら警察だ。
< 51 / 60 >

この作品をシェア

pagetop