中古物件
妙な男が家に居座って出ていかない。
まるで我が家のように振る舞っているから追い出してほしいと。

だけど男が連絡したのは警察じゃなかった。
警察などには頼れない。

自分の身元がバレたらそこでアウトだ。
警察に連絡せずに、冨永を追い出す方法は別にあった。

男は嫌でも忘れることのできない番号を押す。
そしてスマホを耳に当てると、さすがに緊張してきて心臓が早鐘を打ち始めた。

手の平にジットリと汗が滲んできて、何度もスマホを落としてしまいそうになる。
『はい』

相手の声が聞こえてきた瞬間、緊張がマックスに到達する。
と、同時に懐かしさを覚えた。

もう何年も聞いていないその声に思わず黙り込んでしまう。
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