中古物件
その沈黙に『誰だ』と、恫喝するような声が聞こえてきて、男は我に帰った。
『切るぞ』

『ちょっと待ってくれ』
電話が着られてしまう前にどうにか声を絞り出すことができた。

今度は相手がしばらく沈黙する番だった。
男の声に聞き覚えがあったから、考え込んでいるんだろう。

『なんだぁお前……』
『お久しぶりです』

名前は呼ばれなかったが、その口ぶりで察してくれたと気がついた。
『今更なんの用だ、あぁ?』

電話の向こうで眉間にシワを寄せている強面の男の姿が浮かんでくるようだった。
『すみません。その、もう1度世話になりたくて連絡しました』

嘘だけれど、緊張して声が震えた。
昔随分としごかれたことを思い出して背中に冷や汗が流れていった。

『なんだと?』
『俺今○○にいます。中古の家を買って、そこを終の棲家にするつもりで……』
住所まで一気に伝えた。
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