中古物件
心臓は早鐘をうち、今にも爆発してしまいそうだ。
呼吸もみだれて酸欠状態になっている。

だけどスマホを手放すわけにはいかなくて、さらに強く握りしめた。
『それ、本当なんだろうな』

『嘘じゃないです。もう、金も底を尽きてどうしようもなくて、それで電話しました』
電話の向こうで相手が黙り込む。

男もそれ以上なにも言わずに沈黙した。
数十秒か、数分か、永遠のように長く感じられる時間が過ぎていった。

『わかった。そこで待ってろ』
『はい。もう逃げも隠れもしません』

男がそう言うと、電話は一方的に切られた。
無音のスマホを握りしめたまま、男は大きく肩で呼吸を繰り返す。

落ち着いてからスマホ画面を表示させ、さっき通話した男の番号を拒否、削除したのだった。
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