中古物件
☆☆☆

『僕たちが入れ替わっていても不思議じゃないかなぁと、思っただけです』
冨永は勝ち誇った顔で男へ向けてそういった。

ミカが自分に気があると思い込んだその日のことだ。
そこで男は怒って見せたが、実は冨永がこの家に現れたときからそう思い、計画を考えていた。

組織の連中に冨永を自分だと勘違いさせた上で殺害させる。
そうすれば腫れて俺は自由の身だ。

隠している金を持って海外へ高跳びして、豪遊することだってできる。

組織の連中は俺がすでに金を使い込んでしまったと思っているだろうから、しつこく探し回るようなこともしないはずだ。

それでも用心に用心を重ねて、男は自宅の前で30分ほど中の様子をうかがった。

周囲はすでに暗くなっていて、街灯も少ないこの場所では黒いスーツを着て潜んでいても誰にも気が付かれない。

そのままの状態で10分、20分と経過していく。
家の中で動きは感じられない。

組織の連中はさっさと仕事を済ませて出ていっているのだろう。
それでもさらに10分待ったのは男の慎重な正確ゆえだった。

昔、組織にいた頃は少しの間違いが命取りになった。
そのときに身に付いていた慎重さが今更出てくるなんてと、ひとり苦笑いをする。
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