一途な溺愛が止まりません?!〜従兄弟のお兄様に骨の髄までどろどろに愛されてます〜

20、成人の儀の宴

 豪華なシャンデリアが天井から下がり、キラキラと会場を照らす。会場は人に溢れ、ガヤガヤと賑わっていた。国で一番有名なオーケストラが奏でるメロディーが響き渡る。

「プリンツェッスィン王女殿下とヴァール王甥殿下のご入場です!」

 会場を包んでいた騒がしい声が静まり、プリンツェッスィンとヴァールが入場した。

 今日は二人の護衛としてベネディクト・シンジェロルツとダーヴィト・ベールマンがプリンツェッスィンとヴァールにつく予定だ。

 ベネディクトとダーヴィトはゲニーとヴァイスハイトがエーデルシュタイン王国の学園で出会った元学友兼親友で、ベネディクトは毛先がはねた茶髪にグレーかがった水色の瞳、ダーヴィトは肩までの銀髪を一つに縛り紫色の瞳を持つ男であった。

 二人はゲニーが国を治めるときエーデルシュタイン王国から引き抜いてきた者たちである。

 プリンツェッスィンたちの挨拶が終わり、演奏と共にダンスが始まった。

「プリンツェッスィン王女様、僕と踊っていただけますか?」
「はい、喜んで」

 ヴァールとプリンツェッスィンは優雅にダンスを始める。二人はお互いだけを視界に入れて、他は目に入らなかった。

「ツェスィー、ダンス上手だね」
「それを言うならヴァールお兄様もですよ? 兄様は不得意なものとかあるのでしょうか?」

 ヴァールは微笑み、愛しい従妹も可愛らしく微笑む。

「不得意……。学業に関してはあまりないけど、論議とかはそんなに得意じゃないかも?」
「兄様は優しいですからね。相手を優先してしまうんですよね」
「それを言うならツェスィーもじゃない? ツェスィーは人と喧嘩するの嫌いだもんね」
「それこそ兄様だと思いますが。王様になったらもう少し人に厳しくしないといけませんよ?」

 めっとばかりにプリンツェッスィンがヴァールを注意した。

「あはは……。それはビリーに頼んでる。適材適所だよ」
「ふふ、そうですね」

 そして二人は見つめ合い、ヴァールが口を開く。

「ツェスィー……」
「何ですか?」
「今は君を堂々と婚約者と言えなくてごめんね」

 目をふせながら、ヴァールがプリンツェッスィンに謝罪した。

「大丈夫ですよ。もうすぐ言えますから」
「え?」
「ふふ、この後お話があるので、楽しみにしていてください」
「分かった。あ、曲が終わった。もう僕は遠慮しておくね」

 申し訳なさそうにヴァールはダンスを終えることを伝える。

「兄様……。私とダンス続けて踊ってくれますか?」
「それは……。いや、嬉しいし踊りたいけど、それはダメだよ」

 この国でダンスを連続的に踊るのは婚約者や夫婦で、つまり連続的に踊ると二人が婚姻を考えてるということを周りに教えてしまうのであるのだ。

「大丈夫ですよ! 後で王女様が我儘言ったって言ってくださっても良いので! ……ダメですか?」

 プリンツェッスィンに上目遣いでお願いされ、ヴァールはコロッとそのお願いを了承してしまう。

 プリンツェッスィンに激甘なのは彼女が生まれてから変わらないヴァールの習性であった。

 結局プリンツェッスィンとヴァールは曲が終わるまでダンスをする。周りにいる貴族たちは何やらコソコソと話し出した。流石にまずいと思った二人は口裏を合わせる。

「ヴァールお兄様! 私の我儘で全て踊って頂きありがとうございます。この様に皆の前で踊るのは緊張してしまって……。生まれてこの方実の兄のように接してきたお兄様がダンスの相手をしてくれて助かりました!」
「いえいえ、プリンツェッスィン王女様のお役に立て光栄です」

 二人の演技は舞台役者かのようで、極々自然で皆は騙されてしまった。あら王女様の我儘だったのねと一同納得した様子だ。

 そして護衛のベネディクトとダーヴィトは揃って女性を連れてやってくる。

 ベネディクトの隣にいる水色のストレートヘアを一つに後頭部でまとめあげ、深海色の瞳を持つ女性はリア・シンジェロルツで、ダーヴィトの隣にいる黄緑の緩やかに波打つロングヘアを後ろ一つに結んでる深緑の瞳の女性はテレーゼ・ベールマンであった。

 この二人の女性はアンジュとデーアの元学友であり親友だ。

「プリンツェッスィン王女殿下、ヴァール王甥殿下、この度は誠におめでとうございます」
「この様な役目、恐悦至極にございます」

 ベネディクトとダーヴィトは順番にプリンツェッスィンとヴァールに話しかけ、頭を垂れた。

「プリンツェッスィン王女殿下、ヴァール王甥殿下、いつもベネディクトがお世話になっております。私はベネディクトの妻のリア・シンジェロルツですわ」
「同じくいつもダーヴィトがお世話になっております。私はダーヴィトの妻のテレーゼ・ベールマンです」

 続いてリアとテレーゼが挨拶し、頭を垂れる。

「ベネディクトさん、ダーヴィトさん、本日は護衛ありがとうございます!」
「ご婦人方も同伴ありがとうございます。沢山料理も用意しました。お口に合うといいのですが」

 プリンツェッスィンとヴァールが四人から挨拶を受け、返した。

「素敵なご夫婦ですが、父や母たちとの出会いや、夫婦の馴れ初めをお聞きしてもいいですか?」

 プリンツェッスィンから見てお似合いに見えた二組の夫婦に彼女が質問をする。

「ゲニーと魔法学の班が一緒で仲良くなって、彼にヴァイスハイトを紹介されたんです。そのヴァイスハイトからダーヴィトを紹介されたんですよ。ヴァイスハイトはダーヴィトと剣術の授業でペアになって仲良くなったらしいんです。俺とダーヴィトは最初仲悪くてですね。水と油って感じでしたよ。俺は言っちゃなんですが、女性と仲良くて。ダーヴィトは逆に女性が大っ嫌いで男色家って噂が出たくらいですね」
「本当ね。結婚する時、関係ある女と手切れさせるの大変でしたわ」

 リアがジト目でベネディクトを軽く睨みつけた。

「そうかい? 言っとくが、君としかしてないよ?」
「あら? 婚前交渉してたと思いましたわ。意外ね」

 ベネディクトはサラリとそれをかわす。

「貴族として問題を起こさないよう、それはしたくても出来ないからね。仕方ない」
「あっそう。仕方ないからなのね。不潔ですわ」

 バチバチと火花を散らしながら喧嘩しそうになるベネディクトとリアを見て、テレーゼが焦って助け舟を出した。

「えっと、私とダーヴィトはですね! ねぇ……これ言うの?」

 テレーゼはダーヴィトに目配せをする。

「私から言おうか? まあ……こいつが木に登ってあぐらかいてサンドイッチ頬張ってましてね。ああこいつ身上書で見たことあるやつだと思っていたら、私の上に落っこちてきたんです。それから話すようになって結婚しました。全然女っぽくないので気楽だったからですね」
「あーそう? そういうことだったのね?」

 テレーゼは顔を鬼のように怖くした。

 そのとき後ろからアンジュを連れたゲニーと、デーアを連れたヴァイスハイトが現れる。

「おいおい。妻にそんな態度じゃ嫌われるぞ?」
「言わなくてもわかるだろというのはやめておけ。それをしてると夫婦仲が悪くなる」

 国一二を争う愛妻家二人が登場し、親友二人に助言をした。

 そしてゲニーはいかにも面白そうな顔をしながら口を開く。

「ベネディクトは学園でリアに一目惚れしたんだよな。学園にいた時も可愛い可愛いって煩くてな。リアの生家のオーフェルヴェック家と婚姻を結ぶとどんだけ有益か親に訴えかけて、リアを婚約者候補に登らせてそのまま嫁に貰ったのにそれじゃ愛想つかされて離縁されるのも近いぞ?」
「おま!」
「王に向かってお前はないだろ?」

 ゲニーはにやにやしながらベネディクトを揶揄った。

 ベネディクトが真っ赤になりながらわなわなと震える。

「ダーヴィトもテレーゼが木から落ちてきた時、天使が舞い降りたと思ったとか言ってた気がするが。確かにサッパリした性格のテレーゼはこの朴念仁にピッタリだが、よくテレーゼの菓子は上手くて家庭的な女だと褒めていたのは嘘だったのか?」

 ヴァイスハイトに痛いところを突かれたダーヴィトは黙り込んでしまった。

「ふふふ、仲がよろしいんですね!」
「「違います!!」」

 プリンツェッスィンは微笑み、四人は真っ赤になりながらと声を揃えて言う。

「こりゃ来年子供が生まれるかもなぁ」

 ゲニーは面白そうに、アンジュにこっそりと耳打ちしたのだった。
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