玉響の花霞       あなたにもう一度恋を 弍
金曜日の仕事帰りに筒井さんに
会いに行くことをメールで伝えたら、
帰りが遅くなると危ないからと言われ
土曜日の午後に行くことにしたのだ。


予定していた秋の旅行も今回は
なしとなり、来年のGWまで
楽しみにとっておこうと蓮見さんと
古平さんと決めた。



「こんにちは。」


あっ‥‥もう包帯が‥取れてる‥‥


こめかみにうっすら残る小さい傷も
痛々しい‥‥


瞼やおでこにガーゼや
傷テープが止めてあるものの、
先週よりも筒井さんのお顔がよく見える



『どうした?ニコニコして。』


「えっ!?‥‥私そんなに顔に
 出てましたか?‥‥恥ずかしい‥。
 抜糸されたところは痛みますか?」


荷物を置いてから、右側の椅子に
腰掛けると、そっと綺麗なお顔を覗いた


『なんとなく違和感はあるが、
 痛くはない。退院する頃には
 小さい傷は殆ど目立たなくなるさ。』



良かった‥‥
ガラスが万が一頭皮の深いところや、
眼球に当たっていたかもしれないと
考えると恐ろしくてたまらない



「あ、あの‥今日は筒井さんに
 差し入れを持ってきたんです。」


『フッ‥‥。大荷物持ってきたから
 なんだろうとは思ったがな。』


ヴッ‥‥


いつも荷物が多いと言われてるから、
これでも少なくしてきたつもりだけど、
わたしのことをお見通しな感じに
苦笑いが今度は出てしまう



「病院食もしっかりされてるので、
 叱られない程度に作ったんです。
 明日また来ますから
 寝る前とかにお腹が空いたら
 無理せず食べてください。」




蓮見さんが滉一は大食いだからきっと
病院食じゃ足りないはずって
笑って言っていた。


『今少し食わせろ。』


「えっ!!?
 さっきお昼食べたばかりですよ?」


『お前俺の食欲知ってるだろ?』


それは知ってますけど‥‥
そんなに喜んでくださるなら
もっと沢山持ってこれば良かったな‥


ベッド用のテーブルの上に
タッパーを置き蓋を開けた。


『‥‥美味そう。食べていいか?』


「はい、勿論です。」


片手しか使えないから食べやすいように
小さめの巻き寿司を色々作ってみたのだ


ベーシックな太巻きと、お寿司が
好きな筒井さんに鮪のヅケを大葉と
ゴマを振った酢飯で細巻きにしたもの
などを少しずつ入れてきた。



夕食前なのに、炭水化物を
美味しそうに口の中に入れて食べる
姿に嬉しくなる



「退院したら美味しいもの食べにまた
 行きましょうね。」


『そうだな‥‥』
< 106 / 145 >

この作品をシェア

pagetop