玉響の花霞       あなたにもう一度恋を 弍
担当のスタイリストさんと
仕上がったスタイルを一緒に鏡で
確認すると、別人のような自分に
見慣れないものの、すごくスッキリして
思わず笑顔になってしまう


「‥‥ありがとうございます。
 とても素敵です。」


『こちらこそありがとうございます。
 全てお任せでしたが、
 井崎さんの良さをより引き出せるよう
 デザインさせていただき光栄です。』



胸まであった長い髪が嘘のようになく、
顎よりも上で短く切られた
ショートボブスタイルに、
カラーリングも少しだけ明るめにして
柔らかい色味にしてもらったのだ


こんなに髪が短い自分を小さい時以来
見たことがないけど、首も長く見えるし
頭も小さくなって嬉しい‥‥


本当は髪の毛だけ切って帰る予定
だったけど、新しく服やアクセサリー
が見たくなりそのままショッピングに
出かけることにした。


以前もこんなことがあったな‥‥


両手に抱えきれないほどの荷物を
持っていた帰りに筒井さんに
偶々会ったんだっけ‥‥


大丈夫‥‥
もうあの時とは違う‥‥


この数年で、私なりに前よりだいぶ
強くなったと思っている。


支えてばかりしてもらっていた
自分じゃダメだ‥‥


筒井さんと一緒にいた時の素直な
自分は決して否定したくないけれど、
このままだと何も変われないからこそ
もう一度始めようと思う。


諦めるんじゃない‥‥
もう一度あなたに恋をする自分を
ここから始めるんだ‥‥
ただそれだけだから‥‥。





「おはようございます。」


『えっ!?‥‥どうしたの?
 一瞬誰だか分からなかったわ。』


「そうですよね。まだ私も見慣れない
 のですが、すごく気に入ってます。」


『ううん、とても素敵で似合ってる。
 大人っぽくていいと思うわ。』


「ありがとうございます。」


制服に着替え終えてから、
いつも通りの毎日がまた始まった。


佐藤さんと忙しく来客応対や
電話応対、パソコンの管理や入力を
交代で行いながらあっという間に
午前が終わってしまう


これぐらい忙しい方が大変だけど
今のわたしにはありがたい‥‥



『霞‥‥いいじゃない‥
 すごく似合ってる。』


菖蒲にもかなり驚かれたけど、
事情を知っている菖蒲は私を見て
優しく笑ってくれた。



『これからが大変かもね。
 ただでさえモテるのに、更に
 綺麗になっちゃったから。』


「そんなモテないから‥‥。
 それにわたし‥‥
 諦めるのは辞めたんだ‥。
 また片思いに戻ってしまったけど
 ‥‥‥頑張るよ。」


『霞‥‥。うん、分かった。
 とりあえず今日は飲むよ。』
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