玉響の花霞       あなたにもう一度恋を 弍
私と筒井さんを笑顔で交互に見たあと
ニコリと優しい顔で笑うマスターに、
恥ずかしくなってしまったけど、
丁寧にお辞儀をしてからカウンターに
腰掛けた。


『これ、よろしければ合間に
 珈琲と一緒にどうぞ。
 お口に合うといいのですが‥‥』


私にくれた包み紙と同じということは
チョコレートかな?
 


筒井さんにとってマスターは
人生を修正してくれた大切な人だという


私にとっても悩んだ時に会いたい
かけがえのない人だから、また
こうして2人で来ることが出来て
本当に良かった‥‥



『ありがとうございます。
 美味しくいただきます。2人とも
 一杯いかがですか?』


筒井さんと目を合わせ頷くと、
マスターの丁寧に豆を引く姿を
JAZZの音楽に癒されながら眺めた



フランスにもホッとするような
こういった場所があるといいな‥‥


週に2、3度も訪れていたくらいだから
筒井さんにとってここは私以上に
大切な場所だと思える


私に見せてくれる大人な筒井さんも、
蓮見さんたちと絡む面白い一面も
大好きだけど、私がアルバイトを
していた時に見ていたこの筒井さんが
始まりだったんだよね‥‥


『フッ‥‥なんだ?そんなに見て。』


「えっ!?あ‥‥いえ‥‥ここで
 筒井さんと出会ったんだなって
 思い出してました。」


あれからもう4年以上も経っていた
ことにも驚いてしまう



私は少しは大人っぽくなれたのかな‥



『お待たせしました。
 ブルーマウンテンになります。
 霞さんはミルクとハチミツを
 良ければどうぞ。』


『いただきます。』


「ありがとうございます。」


マスターが丁寧に箱のリボンを
解くとやっぱりチョコレートで、
目の前で美味しそうに食べながら
珈琲を口に含んでいた



『ほのかにブランデーの香りがして
 これも珈琲によく合います。
 ありがとうございます。』


『向こうは気候が寒いので、
 こういったベーシックなチョコにも
 お酒が使われているものが
 多いんです。』



そうなんだ‥‥
同じ企業製品でも国によって
様々なものがあるなんて‥‥
食べてみたくなってしまう。


1時間ほどマスターと楽しい時間を
過ごした後は、前の晩からとっていた
昆布出汁に下茹でした大根を弱火にかけ
ふろふき大根をコトコト煮込んでいた


『いつもこうして自炊してるんだな。
 手慣れてる。』


「母が女手1つで育ててくれたので、
 手伝っているうちに覚えました。」


グリルで鯖を焼きながら、そぼろ味噌を
作っていると、筒井さんがその匂いに
つられてきたのかキッチンに顔を出した


時間の合間にメールの確認や仕事を
少ししているみたいで、さっきまで
1時間ほどパソコンに向かって
カウンターで仕事をしていたのだ。



『昨日も美味かったから楽しみだな。』



頭を優しく撫でてくれる手に、
少しでも役に立てて良かったと思う


好き嫌いはないというので、
明日は亮さんに教えてもらった
カレーでも作ろうかな‥‥


お味噌汁を作り終えると、
常備菜のマリネやお浸し、漬物なども
お皿に並べて、筒井さんと一緒に
カトラリーなどを用意していると
チャイムが鳴り驚いた
< 29 / 145 >

この作品をシェア

pagetop