玉響の花霞       あなたにもう一度恋を 弍
運ばれてきた焼き鳥を食べた菖蒲は、
残りのビールを喉に流し込むと、
笑ってそう言ってくれた。


我儘か‥‥‥。
確かに自分からこうしたいとかは
言ってないけど、こんな私に
向き合って貰ってることが既に
迷惑かけてるからな‥‥



「‥‥うん、連絡してみようかな。」


『おう、頑張れ。』


菖蒲と駅で分かれてから、
電車に揺られながらも、なんて
送ろうかを家に着くまで
ずっと考えていた。


何も報告することがないといえば
ないし、やっぱりお元気ですか?とか?
私のことを話すよりも、
筒井さんの様子が知りたいな‥‥


写真で見せてもらったあの小さな
部屋で、どんなことを考えて
探してるんだろう‥‥


鞄から鍵を取り出すと、
筒井さんが使っていたキーケースを
手に取り、そこにそっと唇を寄せる


私のキーケース‥‥フランスでも
使ってくれてるといいな‥‥


そうだ!
これを写真に撮ってメッセージを
送ってみよう!!



右手でそれを手に持ちカメラ機能で
写真を撮ると、添え付けをして
メッセージを考えた。



「(筒井さんこんばんは。そちらは
 まだお昼なのでこんにちはですね。
 毎日家を出る時も帰ってくる時も
 筒井さんに頂いたキーケースを
 使って帰れることが嬉しいです。
 美味しいものを食べて無理せず
 お仕事されてくださいね‥‥と。)」



初めて送るメールだから、
あまり重たいメッセージにしたくなくて
今日忙しくて見れなくてもいつか
見てくれればいいと思い送った。



‥‥‥はぁ
こんなことでいちいち緊張するなんて。
お風呂の準備でもしてこよう‥‥。



お風呂のスイッチを入れてから、
クレンジングジェルで丁寧にメイクを
落としていると、スマホのバイブが
テーブルの上で音を鳴らした。


メールかな‥‥‥


「ツッ!!嘘!!‥‥筒井さんから?」



15分前に送ったばかりなのに、
まさかこんなにも早く返信が来るなんて
思っても見なかった‥‥


心臓が煩いくらいにドクドクと
音を鳴らし、手なんて震えてる


ふぅーっと深呼吸をした後
メールをクリックして開くと、
短い文章なのに、それを見ただけで
涙が一気に溢れてきた



「(俺も大事に使ってる。
 お前の手料理が早く食べたい。)』


私と同じように手に持ったキーケースの
写真を送ってくれ、その愛しい手にさえも触れたいと願ってしまう


ここは近所の公園かな‥‥
時間的に向こうは今、
お昼休憩なのかもしれない。

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