玉響の花霞       あなたにもう一度恋を 弍
ベッド脇の椅子に腰掛けていた
ジュニアに瞳を勢いよく開けると
そこから起き上がった


「伊野尾さん!大丈夫でしたか?」



落ち着いた様子でサイドテーブルに
置いたノートパソコンで仕事を
していたのか、私の方に向き直り
声をかけてくれたのだ



『大丈夫かどうかは井崎さんの
 方だろう?‥‥痛みはどうだ?』


えっ?


伸びてきた手が叩かれた方の左頬に
触れるとそこを親指で優しく撫でた


「だ、大丈夫です!もう痛くも
 ありませんから。」


俯くと今度は頭に手を置かれて
そこを今度は優しく何度か撫でられる


『なんとかすると言ったのに、
 結局阻止できずに迷惑をかけたな。
 本当にすまなかった。』


「いえ‥‥‥その‥‥正直とても
 怖かったですし驚きましたが‥」


『真面目に働いていた君に何も批は
 ない。プライベートなことを
 持ち込んだ俺の責任だ。
 父にも伝えたし、相手側にも
 きちんと電話で伝えたから
 もう来ることはないよ。』


「そうなんですね‥‥でも、その
 婚約されてる方なのに‥‥
 大丈夫でしょうか?あ‥‥いえ、
 私なんかが差し出がましく
 伺ってしまいすみませんっ‥」


恋人同士だったら仲直りして欲しいし、
私が機嫌を損ねてしまったのなら
きちんと謝りたい。



こんなことが原因で破談や、別れる
ことになってしまったらそれこそ
申し訳ないから‥‥


『フッ‥‥。君は自分のことより
 人の心配をしてくれるんだな。
 やっぱり俺の周りにはいない
 タイプだよ‥‥。』


えっ?


少し寂しそうにも見えた顔で笑うと、
何故か切なくなってしまった


ジュニアのそばには心配してくれたり
寄り添ってくれる人はいないの?


あの婚約者の方はジュニアの側でそう
してくれないのだろうか?



『今日は家まで送らせて欲しい。』


最初は断ったものの、頭を下げられて
しまったので仕方なくジュニアの
車に乗せてもらった



運転手付きとか初めてだ‥‥


てっきりジュニアの車に乗るものだと
思っていたのに、かなりの高級車の
後部座席に並んで座ることに緊張して
しまった



『拓巳から明日も無理そうなら有休
 使ってくれていいと連絡が来ている
 から後で返信してやってくれ。』


「は、はい‥分かりました。」


横顔を見ると疲れが溜まっているのか
顔色もあまりよく見えない


眠れていないのだろうか‥‥
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