玉響の花霞       あなたにもう一度恋を 弍
顎を上に向かされると、塞がれた唇に
瞳を閉じ筒井さんを感じ、それと同時に
溜まっていた涙が溢れてしまうと
優しく大好きな手で拭ってくれた



『せっかくだから出かけないか?』


「‥行きたいですけど‥‥お体
 疲れてませんか?」


腕の中で抱きしめられたまま
そう答えると、おでこに唇が触れ、
見上げた先に優しい顔で笑っていた


『平気だから準備しておいで‥』


「‥はい、嬉しいです。」


そんなにお洒落な服は持ってきて
ないけど、化粧をしてから着替えると
リビングのソファに腰掛けていた
筒井さんの元へ向かった


「お待たせしました。
 遅くなってすみません。」


うわ‥‥
白シャツにデニム姿の筒井さんが
新鮮で見惚れてしまいそうになる。


ラフな格好は沢山見てきたけど、
カジュアルでもスタイルがいいからか
品やきちんと感すら損なわれていない


こんな素敵な人のそばにいることが
いまだに夢ではないかと思う‥‥


『そんな急がなくても大丈夫だから。
 よし‥‥じゃあ出掛けようか。』


「あ‥‥はい。」



いつものように助手席のドアを開けてからスマートな動作で私を車に乗せてくれ
てから、筒井さんも運転席に乗り込んだ


明るい時間帯に筒井さんの車に
乗れるのってとても新鮮だ。


表情も仕草もよく見えてしまい、
どこを見ていいかも分からない。



『フッ‥何してんだ?』


「い、いえ‥‥何でもないです。」


落ち着きのない私を見て少し笑うと、
エンジンをかけて車が動き出した。


「筒井さんの行きたいところに今日は
 行きませんか?」


『俺の?』


「はい。私はいつでも出掛けられるので
 向こうに帰られる前に行きたいお店や
 場所に行きたいです。」


かなりのハードスケジュールの合間に
日本に立ち寄ってくれたみたいだし、
月曜日に社長とお話ししてそのまま
1週間人事で引き継ぎや段取りをして、金曜日にはフランス行きの便に乗ると聞いた。


あと1週間は日本にいるけど、
平日が始まれば仕事が忙しくなり
ゆっくりする時間もないと思う。


そんな貴重な時間に一緒にいて
いいのかすら分からないからこそ、
筒井さんの時間を大切にして欲しいって
思えたのだ。



『俺はお前と行く場所を決めたい。
 2人でいる時は2人の時間が楽しめる
 方がいいからな‥‥。
 お前は人のことばかり心配しすぎ
 だからもう少しわがままを言え。』




筒井さん‥‥
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