天使♡と悪魔★はお嬢様を溺愛する
パーティーまで少し時間があるので、私は大広間を出てベランダのテラスで椅子に座った。
今日は天気も良く、風が心地良く吹いている。
しばらく椅子に座っていると、そこへ私と歳が近そうな女性がドレス姿で近づいて来た。
深紅で大人っぽいドレスを着こなしている。
とても美しい女性だが、意志の強そうな眼差しで、とても気が強そうに見える。
ストレートの長い黒髪が、艶やかに光を反射していた。
「初めまして。私は神宮寺家の次男の娘で沙織と言います。」
「…あっ…私は…神宮寺恵美です。よろしくお願いします。」
沙織と名乗ったその女性は、私の頭のてっぺんから足元までを舐めるような視線で見ている。
何を言われるのか不安になってしまう。
「貴女が恵美さんですね。亡くなった恵さんと…顔だけはそっくりね。」
何を言って良いか分からず、黙っている私に沙織はさらに話を続ける。
「貴女は一般の家庭で育てられたのでしょ?それで神宮寺家の跡取りが務まるのかしら。貴女が無理と言うなら、いつでも私が変わって差し上げるわ。」
とても棘のある言い方だ。
きっと沙織は私を神宮寺家の跡取り娘とは認めたくないのだろう。
沙織に対して、何を言ったら良いのかわからない。
私自身も神宮寺家の娘としてやっていける自信はまだないのだ。
その時、早乙女が私達のほうに近づいて来た。
「沙織様、ご無沙汰しております。」
早乙女が沙織の手を取り、跪いて手の甲に口づけた。
沙織は嬉しそうな表情で頬を赤くした。
「早乙女さん、お久しぶりね。お会いしたかったわ。」
沙織は早乙女の腕に自分の腕を絡ませて、恥じらうように微笑んでいる。
先程の表情の女性とは思えない別人のようだ。
龍崎は私の横に立ち、沙織に気づかれないように耳打ちをした。
「私と早乙女は、どうやら沙織様から妙に入られているようなのです。恵美様、お気を付けください。」
沙織は以前から龍崎と早乙女に夢中だったのだ。
恵さんが亡くなり、自分がその代わりになるチャンスを狙っているようだ。
そこに私が来てしまったのだから、面白くないのは当然かもしれない。