女騎士と大賢者の結婚
 指と指の間を目一杯開いて、差し出す。

 指輪を壊してしまうと遠慮する割に手は大きくなく、日々の鍛錬が染み付いていた。

「ちなみに今は嫌がらせで、はめて差し上げましょうかと言ったのです。爪、割れてますよ」

「あっ! そ、そうなのか! 賢者殿の嫌味は遠回しが過ぎて分からない。汚い手をすまなかった」

「……別に汚い手とは言ってません」

 ミトラスは引っ込めようとした腕を掴み、口元へ寄せた。そして傷口に向け小さく唱えると、みるみる修復されていく。
 セミラは不思議な温かさに瞬き、言葉を失う。

「魔法嫌いの貴女は施術を拒むと聞いていますが、これをはめる為には我慢して下さい」

 指輪はセミラに触れると、彼女のサイズに調整されてピタリと吸い付いた。
 セミラは左手を天井へ翳し、繊細な装飾を確かめてみる。

「獅子?」

「えぇ、金獅子が彫られてます。貴女の別名でしょう?」

「貴殿はーー鴉か?」

「そうですよ。それではこれから宜しくお願いしますね。くれぐれも僕の邪魔はしないで下さい」

 こうして2人の同居生活が始まるのだった。
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