女騎士と大賢者の結婚

2 意識



 セミラの朝は早い。小鳥のさえずりを起床の合図にして、まず顔を洗う。それから朝食の支度をするのだが、通り掛かった書斎を覗いてみる。

「また机で寝ているのか」

 書籍がうず高く積まれた机上に突っ伏し、寝息を立てる大賢者。窓も扉も開けっ放しで無用心にも程があるが、いわく結界を張っているので問題ないらしい。

 セミラは溜息を吐きながら室内に入り、ブランケットをかけてやる。

「私は貴殿が体調を崩そうと関係ないが、陛下の為に夜通し調べ物をしているのだろう」

 自分の行為を正当化するよう呟く。

 懸念しか無かった賢者との共同生活は思いの外、衝突は起らない。そもそも2人の活動時間がすれ違っており、顔を合わせる機会が少ないのだ。
 料理、洗濯などの家事は各々がこなし、共用部の使用後は必ず清掃をする。無論、夫婦らしい接触は皆無であった。

 簡単な朝食を済ませ、セミラは朝の勤めへ向かう。
 ミトラスの屋敷から訓練所までは距離があるので最初の頃は夜も明けきらぬうち出立していたが、段々慣れてきた。
 行き帰り徒歩となると相当な運動量になるが、それも鍛錬と励む。

「おはよう!」

 森の住人等に挨拶する余裕もでき、清々しい空気を思い切り吸い込む。彼女の環境適応力はミトラスをも驚かすものだった。

 ミトラスだけじゃない、周囲もこんな娯楽のない環境にセミラが退屈しないはずがないと賭け事の対象にし、結果大方の予想を裏切る。

 確かに派手な遊びや大人数で飲み食いするのが好きなセミラだが、1人で過ごすのも悪くないと気付く。
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