女騎士と大賢者の結婚
「証拠と言われましてもーー」

 途端に及び腰になる。まぁ、副団長からしたらミトラスを悪く言いたかっただけで、こんなにもセミラが食い付いてくると思わなかったのだろう。

「一緒に住んでる団長が真偽をはっきりさせられるんじゃないっすか?」

 その言葉にはっと顔を上げるセミラ。

「……そうだな、団員に様子を探らせバレたりすれば元も子もない。それに惚れ薬なんて代物、公に作成などしないだろう。作るのなら自宅か?」

 ブチッと何かが切れる音がし、それは指輪に挟まった髪だった。
 セミラはここでまた思い出す。
 同居の譲れない条件にミトラスは研究の邪魔をしない旨を上げた。つまり、惚れ薬作成を妨害されないようにしたのか。

「団長が惚れ薬を盛られる危険も忘れないで下さいよ?」

「私に? なぜ? 被験者にでもするのか?」

「いやいや、だって団長はおキレイーー」

 新人ならいざ知らず、副団長が禁句を知らないはずがない。彼は慌てて自分の頬を打ち、発言を止めた。

 そう、騎士団長セミラは女性として扱われるのを何よりも嫌う。
 彼女の容姿を美しいと讃えるのは男女を問わない。しかしながら当人は賛美を受け付けず、強く逞しくあり続けることを優先する。

「副団長、妙な心配はするな。ミトラスは私を女として見ていない」

 セミラは指輪を撫で、宣言した。

「金獅子の名にかけて、陛下は私が必ずお護りする」
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