女騎士と大賢者の結婚
「はぁ、先が思いやられる」

 眉間を揉む指先に指輪を見付け、眺める。これをセミラは高価と言うが、騎士団長の給金であれば手が届かない品じゃないはず。彼女の金の流れをカラスに調べさせたところ、身寄りがない子供達へ援助しているのが分かった。

 ミトラスは室内を見回す。
 屋敷に越してきて日数が経つも、セミラの私物が増えた様子もない。

「おや? 図鑑がない」

 共用部に置いた本棚から数冊抜かれている。ミトラスは沢山の書籍を所蔵し、持ち出された図鑑は彼が少年だった頃、両親から買い与えられたものだ。今更見返すほどの知識は載っていないが思い入れはままある。

 断りもなく持ち出すなんて、不快感を表情に集める途中、はたと気付く。

『図鑑を貸してくれないか?』

 寝ているミトラスへブランケットを掛けながら、セミラは一応尋ねていたのだ。

『この森の植物や動物を調べたい』

 とも言っていた。
 ミトラスは襟足を掻き、窓の向こうに広がる森へ視線を向ける。

「僕はたとえ騎士であっても、探究心を潰す真似はしません」

 見る者が森をみれば、どんな魔術師が住んでいるのか分かるとされる。自然は魔術師の気質に影響を受けるからだ。
 よって、セミラの森について調べたいとの発言はミレトスを知りたいと同義。セミラにそのつもりはなくとも彼の心を騒がす。

 ミレトスは自分の領域に他人を入れたことなど、これまで一度たりと無かった。
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