女騎士と大賢者の結婚
■ 

 祭り当日。セミラは金色の鎧の上から猪に扮してミトラスの隣へ並ぶ。
 例の薬を飲んだ以降、これまで以上に顔を合わせないようにしてきたものの、特段身体に変化は起こっていない。

「何ですか? ジロジロと」

「いや、貴殿が狩人の仮装をするとは意外で」

「そうでしょうか? 猪を駆除するのが狩人、よく似合っているでしょう?」

 ミトラスは挑発気味にくるり、回ってみせる。

「あぁ、良くお似合いだ。腰に携えた銃め撃ち抜かれないよう注意する」

「是非そうして下さい。僕は機嫌が悪い、うっかり手を滑らせてしまうかもしれません」

 年に一度の祭を楽しむ集団より少し離れ、セミラ達は賑やかな声や音楽を見守った。

 行き交う人々は2人に気付くも声を掛けるまでに至らない。猪と狩人の組み合わせが敵対関係を非常に分かりやすく演出しているからだ。

「祭は初めてか? だったら案内するぞ。露店の食べ物も美味しい」

「いえ、遠慮しておきます。こんな埃っぽい場所で飲食するなど不衛生ですし。それより陛下はまだですか? 仮装大会は? さっさと済ませて帰りましょう」

 祭場に着いてそれほど経っていないうちから、この飽きよう。ミトラスの瞳は寝不足を引きずったまま覚めない。日陰に入り壁により掛かると目を閉じてしまった。

 ミトラスは惚れ薬を飲ませておいて経過観察を怠る。わざと関心のない真似をしているのではないかと疑うセミラ。

「研究ばかりでは身体が鈍るぞ。たまには日光を浴びた方がいい。それと水分補給を忘れずにな。今日は暑くなりそうだ」

「毛皮の下に鎧を着込む貴女に健康を説かれたくないですがーー確かに喉が乾きましたね」

 側の露店では飲料を扱っており、ミトラスが意識を向けた。
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