女騎士と大賢者の結婚
 突然、前屈みになり唸るので飲料をこぼしそうになる。セミラは咄嗟に加減を伺い覗き込む。
 と、精巧に出来た猪の顔面にミトラスは弾かれたよう仰け反った。

「被り物は取って召し上がって下さいね、はい、どうぞ」

「……ひとつしかないが?」

 注意されなくとも被ったままじゃ飲み食いは出来ない。猪の面を外すと艷やかな金髪が現れ、ミトラスは一瞬言葉を失う。

「っ、痛っ」

「おい、さっきから大丈夫か? 何処か悪いのか?」

「……あなたこそ、頭が悪いんじゃないですか? もしくは察しが悪過ぎる」

 せっかく心配したのにこんな返し方をされて、セミラは構わずストローを含む。
 口内にいかにもな甘さが広がっていくのと同時、どうしてか苦みも覚える。

「あの、ひとりで全部飲まないで下さいよ?」

「は? 賢者殿も飲まないのでは?」

「恋人や夫婦は分け合って飲むそうですよ」

 寄越せと手を出してくるミトラス。セミラは彼とカップを見比べ、なかなか渡せない。

「私が口をつけたものだぞ? 不衛生だろ?」

「貴女、歯磨きしてないんですか?」

「してる!」

「それに騎士団では回し飲みなど日常的なのでは?」

「それはそうだが……」

 どうもミトラス相手だと緊張してしまう、本音を奥歯で噛み砕く。既に半分飲んでしまったカップを乱暴に押し付けた。
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