女騎士と大賢者の結婚

共同生活



 セミラは郊外にある森へブーツを進める。モンスター討伐の為ではない、あの男の屋敷に向かっているのだ。

 騎士団長と大賢者の縁談話はあっという間に知れ渡り、国民から祝福の声が上がる。一方、関係者等は複雑な心境を押し黙るしかなく。

(よりにもよってミレトスと結婚とはな)

 砂利を踏み締めた音と心の軋む音が重なる。

 百歩譲って政略結婚は受け入れよう、しかしながら相手がミレトスとなれば話は別。

 騎士と大賢者は女王陛下をお護りするのが共通認識といえ一枚岩じゃない、なんなら互いが疎ましい、いっそ組織解体されたらいい、あぁ、ミレトスめ国外追放されろ。

(陛下の命に背くことは騎士道に反する。ゆえ、出来ない)

 セミラは荷物を持ったまま空を仰ぐ。

 鎧を着込み、金髪をしっかり編み込んだ出で立ちは戦場へ出向く時と同じだ。
 繰り返しになるが、これからモンスターと戦う予定はない。いや、セミラにとってミレトスはモンスターのような存在か。

「おやおや、逃げずにいらっしゃったのですね」

 その声を聞き、カッとセミラの青い瞳が開く。それから、みるみる殺意に近い怒りが宿った。

「無礼だぞ! 騎士が敵前逃亡などするものか!」

 事情はどうであれ、婚約したセミラは規則により宿舎を出なければならず、ミレトスの屋敷へと越す運びとなる。

 すると、ミレトスは静かに首を振った。

「集団で雑魚寝、同じ釜で飯を食えば仲間などという精神の持ち主では、ここの暮らしは辛いだけでしょう。悪いことは言いません。どうぞお引き取り下さい」
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