女騎士と大賢者の結婚
 鈍いセミラであっても中身は容易に推察できる。

「私は陛下から賜わった鎧がありますのでーー」

「女王のご厚意を無駄にするつもりですか?」

 みなまで言わせて貰えず、遮られてしまう。だが、ミトラスの言う通りである。
 セミラはゆっくり箱を押し、純白の生地へ触れてみた。鍛錬でひび割れた指先を滑らかに滑っていき、まばゆい。

「私にはこのようなもの、似合いません」

 俯き、それでも受け入れ難いとかぶりを振った。
 セミラも結婚式では礼節を重んじ、ドレスを着る予定だ。必要最低限の華美で仕立てようと動いている最中、よもや女王から贈られるのは想定外で。

「袖を通さないつもりか?」

「いや、そういう訳じゃ」

 ミトラスは着飾るのに何ら抵抗はなさそう。それもそのはず、彼が着映えするのは分かりきっている。

「僕は有り難く頂戴致します」

 深々一礼して、さっそく袖を通そうと場を離れようとするミトラスにセミラが手を伸ばす。

「何ですか? 引っ張らないで下さいよ」

 セミラがドレスの着用を嫌がっていると承知しつつ、素知らぬ顔をする。
 指を払い落とされる前に対策を練らねば、セミラは必死に考えを巡らす。

 そしてーー。

「そ、そうだ! 貴殿がこちらを着たらどうか?」

「はぁ?」

「仮装大会なのだから、賢者殿が花嫁衣装を纏ってもいいだろう? なぁ? 良い余興だと思わないか?」

「貴女、世迷言もいい加減に……」

 迷子みたく裾にギュッとしがみつく様をみ、ミトラスは言葉を切った。
 それから女王へ向き直す。
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