女騎士と大賢者の結婚
「ーーなどと、妻が申しておりますが、如何致しましょう?」

 場に居る誰もがミトラスの行動に驚きを隠せない。
 ヘリオトロープも黒い瞳を窺う。
 実は悪戯好きの花の精にちなんでドレスを用意しただけで、女王は本気でセミラへ身に着けさせる気はないのだ。なによりミトラスがその腹積もりに勘付かない訳がない。

「陛下」

 指示を急かすミトラス。

「セミラを妻と呼ぶものだから混乱してしまったわ」

「結婚せよと命じておいて酷い方です。それで? 僕の女装をお目にかけても?」

「え、えぇ、よろしくてよ」

「畏まりました。参加者で一番愛らしくなる為には時間が要りますので」

 これで失礼しますと加え、セミラの衣装を抱えて退出していく。
 その際、そっとセミラの指を剥がしたのだが、彼の手は燃えるような熱さを伝える。

「なによ、貴方達うまくやっているんじゃないの」

 女王が残ったセミラに微笑みかけた。

「うまくなんて……」

 さぁ、ミトラスが惚れ薬を開発している件を訴える機会がやってきた。ところが、セミラの不満は喉に張り付き出てこず、そればかりか別の言葉を紡ぐ。

「賢者殿は陛下の命令で結婚したまで。私の為に衣装を交換したんじゃない。期待しては駄目です」

「そうかしら? 自尊心が山より高いミトラスが女装よ? きっと、わたくしが命じてもしないわ。セミラが困っているのを見過ごせなかったの」

 そう言われてしまえば、ますます惚れ薬について語れないじゃないか。セミラは唇を噛む。

「貴女は女性であることに後ろめたさを覚えているようだけど」

 ふいに核心へ触れられ、セミラの心の柔らかい個所が軋んだ。
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