女騎士と大賢者の結婚
 前のめり気味で青い瞳を輝かす。この顔に嘲笑の類は読み取れないだろう。

「元々は貴女に仕立てられたドレス、僕より貴女が似合いますよ」

 ミトラスはひとつ息を落として告げた。

「……は? 私に似合う? はは、賢者殿、冗談はよしてくれ。私はご覧の通り、色気の欠片もない粗暴な人間だ!」

 ミトラスの発言を掻き消す豪快な笑い声が響く。
 様子を探る参加者達は2人の擦れ違う言葉選びを気の毒そうに聞き流す。関係を構築して結婚へ至っていないセミラ等は本心すら受け止め合えないのだ。

「お待たせしました! 会場へどうぞ」

 そのうちに案内係が誘導を始め、会場へと移動する。

「皆、手を繋いで入場している。どうしようか?」

「誰も仲睦まじい騎士と賢者など期待していないと思いますよ」

 ミトラスはつれなく言い、先に行ってしまう。エスコートするつもりで差し出した手が空回り、セミラはギュッと握り直す。

「賢者殿、その、やはり、繋ぎたいのだが、駄目だろうか?」

 会場へつながるドアを潜る寸前、ミトラスは振り向きドレスの裾が綺麗に翻る。
 外では2人の姿を待ち望む歓声が上がった。

「ーーま、いいでしょう」

 ミトラスはセミラの向こう側にある時事を一瞥して、指先を揃えて掲げる。

 そして、男装したセミラが花嫁衣装の賢者の手を取って現れたことで、女王の登場と同等の拍手が贈られるのだった。
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