女騎士と大賢者の結婚
 説明の補足でミトラスはセミラの手を取り、自分の手と並べた。
 指輪について話す彼は生き生きしており、きっと知識を司る大賢者の本質なのだろう。人々もいつしかミトラスの話術に取り込まれ、熱心に耳を傾ける。

(私はこのまま彼と結婚してよいのか? 分からなくなってきたぞ)

 それこそ今更な件を巡らすセミラ。

(賢者殿は私ではない誰かと結婚した方がいいんじゃないか?)

 指輪は熱くなりセミラを締め付けた。すぐさまミトラスは変化を察知。

「今、僕の研究を邪魔する考えをしましたね?」

「い、いや、してないが?」

「嘘ですね。正直に言いなさい、何を考えました?」

 正面を向いたまま、それも指輪語りをしながら追求してくる。

「本当だ、私は邪魔などーー」

「ならば言えますよね?」

 彼は真実を明らかにするまで引き下がらない。諦めるしかないな、セミラはかぶりを振った。

「私みたいな無知が隣に並んでは、貴殿の頭脳が発揮できない。結婚しない方がいいのではないかと」

「……事あるごとに聞いていますが、何を仰っているのか、お分かりですよね? 僕を慮った風に言っても駄目です」

「だからそこまで愚かじゃないさ。貴殿から離れる選択が研究の邪魔になるはずない」

 小声で口論していたが、ここでミトラスが言葉を切った。

 セミラは繋いだ手を離す。
< 39 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop