女騎士と大賢者の結婚


「ぷはぁ〜労働の後の1杯は最高だなぁ」

 セミラは出されたお茶を一気に煽り、口元を拭う。その豪快な飲みっぷりをミレトスは眉を上げる。

「貴女には警戒心が備わっていないのですか? 男の部屋に上がり、毒見もせずに飲み食いするなんて」

 2人はテーブルを挟み、対峙した。

 セミラとは縁遠い書物に囲まれた空間は薄暗い。華美な調度品もなければ、人を招く機会もなさそう。居心地が良いかと尋ねられれば否(いな)だが、ミレトスの住まいであるのは納得する。

 セミラはミレトスを人嫌い、中でも騎士嫌いの人物と認識しており、やることなすことにケチを付けずにいられない振る舞いを「カラス」と揶揄してきた。

 それは髪、瞳、衣服を黒色で統一、何色にも染まらない彼の使い魔が「カラス」であることに起因する。

「仮に貴殿が私を力で伏せようとすれば切り捨てるまで。毒を盛るなら一般的致死量の倍は盛らないと効かないぞ。おかわりを頂けるかな?」

 冷静な状況判断をする傍ら、セミラは鎧を脱いでいない。黄金に輝く防具は女王の加護を受け、魔術へ耐性がある。

 まぁ、さすがに大賢者を無効化するのは無理だろうが、鎧に傷をつける=(即ち)女王に盾突くのど同義。

「ハーブティーはお口に合いましたか? 心を落ち着かせる効能があります。是非とも喧嘩っ早い方には沢山召し上がって欲しいです」

「私達の喧嘩、かーー酒場のよい賭け事になるな」

「夫婦喧嘩は犬も食わないと昔から言われていますよ。そもそも僕は賭け事が嫌いです。野蛮で下品な行為だと軽蔑しています」

 ミレトスは美しい所作でおかわりを注ぎ、自らのカップへ唇を寄せた。
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