女騎士と大賢者の結婚
「……」

 セミラは頷き、姿勢を正し座す。

「僕に良い案があるのですが? お話しても?」

「どうぞ」

「血判もいいですが、せっかくなので指輪はいかがでしょう?」

「指輪?」

「まじないを施した指輪です。僕と貴女との間で交わす契約を刻んだ指輪」

 ミトラスが空っぽの手の平から小箱を召喚する。それをパカリと開くとペアリングが輝く。
 指輪は着飾ることに興味がないセミラでも価値が伺える存在感を放つ。

「こちらを身に着け、不可侵の契りとしませんか?」

 ミトラスらしい粋な演出ともいえる。

「幾らだ?」

「は?」

「私の分は払おう。それと契約を反故にするとどうなる? 死ぬのか? 私にだけ害が及ぶならいい。周囲を巻き込むのは避けたいな」

 セミラは薬指に指輪をはめる行為をこのように解釈し、ミトラスの予想を斜め上にいく。

「てっきり嫌がるかと……」

「? あ、あぁ、これは嫌がらせなのか? ははっ、貴殿は本当に私が嫌いなのだな、
揃いの指輪をしていた方が夫婦らしいと思ったのだが違ったか」

「いや、その見解で間違いありませんが。僕が言いたいのはーー」

 ここまで告げ、言葉尻を潰すミトラス。

「指輪は差し上げます。契約反故、つまり貴女が私の研究を邪魔した場合、指輪が熱くなり締め付けて警告します。死にません、周囲も巻き込みませんから」

 まず自分がはめてみせ、それから箱をセミラへ押し出す。

「くれるのか? 高価だろうに」

「指輪も買い与えられないと噂になったら困りますし。宜しければ薬指にはめて差し上げましょうか?」

「いいのか? よろしく頼む! こういう装飾品は扱い慣れてなくて、壊してしまうかもしれないし」
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