きっと散りゆく恋だった
「私、ほんとうは」
線香花火を待つ手が揺れる。
「本当は……アイツの彼女として、隣にいたかったんです、ずっと」
とっくに分かっていた。なんでもないただの幼馴染みとして隣にいるなんて、嫌だって。
それでも私は自分の気持ちに嘘をついて、いつも真実を隠してばかりだった。
ポタ、と火玉が地面に落ちる。
決して派手じゃない。勢いもないし、カラフルな色だってしていない。揺れたら簡単に落ちて、たちまち消えてしまう。
目立たなくて、控えめに燃えている恋。けれど何もしなかったら今のように地面に落ちて、あっさり消えてしまう。ある日、突然消えてしまう。
ーー私の恋は、きっと線香花火に似ていた。
「あーー……くやしかったなぁ、……っ、くやしい」
頬を濡らす涙が、静かに地面に落ちる。
おかしいな、一人の時は全然涙なんか流れなかったのに。
「真実」
「……っ、」
「俺ね」
ゆっくり腰を上げた彼は、放り出された枝を手にして近づいてくる。そのままガリガリと地面に文字を彫った。
「波玖。これが俺の名前」
「俺も線香花火しよ」と軽い口調で言って袋に手を伸ばす彼────波玖。
私の涙交じりの吐露など、彼はちっとも気に留めていない。
「いやぁ、実はさ」
蝋燭に線香花火をかざしながら、波玖が口を開いた。
「俺も失恋したんだよね、最近」
「……え」
「だからいっそ、花火しちゃえば忘れられるのかなとか思ったり。でも無理だな、割とクるものがある」
こんなに整った顔立ちをしていても失恋をすることがあるんだなぁ、とぼんやり場違いなことを思ってしまう。もちろん口には出さなかった。
「今ごろ何してんのかな、デートしてんのかなって思ったりね。夏祭りで出くわすかもなとか思ったら、フツーに行きたくないし」
「……」
「バカみたいに俺ばっか想ってて、くだんないなって思うよ」