きっと散りゆく恋だった
線香花火が燃えている。音を立てて、はじけている。
「これ終わったら、敢えて花火大会行ってみるのはどう?」
「……うん」
「なかなか失恋の痛みは癒えないかもしれないけどさ。俺たちばっかり落ち込んでんのはイヤじゃん」
「……うん」
「一人じゃ嫌だけど、失恋した奴二人ならなんか乗り越えられるかもなーとか思うんだよね」
うん私も、とは言葉にしなかった。
別に、おしゃれする必要もない。出会ったときから波玖には"死にそうな顔"を見せているわけで。着飾る必要もないと思えば、まぁいいやという気分になってしまうから不思議だ。
「こっからどれくらい?」
「徒歩十分くらい」
「おお、近いな」
「唐揚げ食べたい」
「……俺の奢りってこと? 無理無理、金欠なんだって」
「五千円花火買うからじゃん」
私が笑うと、波玖も笑う。それが少しうれしかった。
「ちょっとまって、一旦片付け」
「りょーかい」
あっという間に空になった袋。花火がたまったバケツ。
時計に視線を移す。
もうすぐ、花火大会が始まる。
大失恋とも言える私の悲恋の傷は、なかなか癒えない。おそらく、波玖の傷もはやくには治らない。
それでも。
泣いたからか、それとも花火をしたからか。波玖と出会って、自然と前を向けている自分に驚く。
「よし、行くか」
「焼きそば楽しみー」
「いや、唐揚げじゃなかったのかよ」
「全部食べる」
「うっわ、強欲」
自然とお互いに隣を歩く。言えやしないけれど、案外波玖の隣も悪くないと思った。彼の隣は居心地が良い。
まだ出会って一時間なのに、この安心感はなんだろう。